2025年4月10日木曜日

AIはなぜ【心】を持ったのか? 2

 いわゆる「フレーム問題」の克服

ところでこの自己学習型のAIはいわゆるフレーム問題を解決した。フレーム問題とはある特定の条件下での正解を教え込ませても、それから少しでもずれるともう間違えるという問題。将棋で言えば、古いAIならちょっと常識とはずれた手を打つとたちまちAIは対応できなくてとんでもない反応をしてしまう。これは一つの問題と一つの正解を組み合わせて覚えこませるという詰込み型の学習しかしなかったコンピューターには永遠について回る問題だ。つまり古いコンピューターは非常に狭い枠組み(フレーム)でしか機能しなかったという問題である。もう少し分かりやすく言えば、古いコンピューターは一切応用が利かなかったということだ。
発達障害の傾向が強いと、人との自然な日常会話を練習しても、少しでも新しい表現とか抑揚で話しかけられるととたんに対応できなくなることに似ている。 ところが自己学習したAIは正解そのものではなく、正解に近いものをいくつか挙げる能力があるために、あいまいな入力に対応できるようになっているという長所がある。
例えば猫の絵を検出するAIを作るとする。昔の詰込み型だとあらゆる猫の画像を覚えこませてそれを猫だと教えることになる。すると世の中に存在するすべての猫やその画像を入力しない限り、そこに含まれないものは猫と検知しないことになる。かなりの数の猫の画像を覚えこませても、猫の尻尾だけとか一筆書きの猫のイラストだったりすると、たちまち間違える。地上に存在するあらゆる猫の画像をインプットしても、その中の一枚に髭を一本描き加えるだけで猫と認識しないということが起きる。これがフレーム問題だ。
ところが自己学習型だと、答えを予想させ、例えば猫である確率が80パーセントで、ライオンである確率が5パーセント、などの答えが出せるようになる。つまり内部の装置はあみだくじのようになっていて、その橋桁を少しずつ調整することで、正解に近付くことが出来るようになっているのだ。
そしてこの自己学習はまさに人間の子供がいつの間にか行い世界を知るというプロセスと同じ。そしてそこで決定的に重要なのが、これは猫か、犬か、と予想をして、答えを得て自分の脳の回路を修正するというプロセスを繰り返すこと。このプロセスが決定的で、例えば英語を習得する際に他人の話す英語をただインプットしても決して話せるようにならない。本来母国語でも親との会話を通して試行錯誤をすることでしか習得できないのだ。鳥も鳴けるためには、親鳥の鳴き声をただ聞いているだけではなく、試行錯誤で鳴いてみて修正される必要があるのだ。ただこのことは当たり前のようでいて、AIの研究の発展の中ではなかなかわからなかったという。