次に本題に入る。AIはなぜ【心】を持ったのか?ここでは具体的には「大規模言語モデル」(large language model, LLM)について話すことになるが、まずはその前提となることから。 まず私がここでいう【心】とは、話している限りは主観性と感情を備えた心としてふるまうAIのことである。この機能は専門用語では「機能的な理解 functional understanding (FU)」と呼ぶそうである。そして現在の生成AIはこのFUを獲得しているのは間違いない。(手塚治虫の火の鳥【未来編】に出てくる「ムーピー」と同様である。)この【心】の特徴を一言で言うならば、主観(クオリア)を持たず、感情を有しないということであり、それ以外は私たちの心に匹敵するものと考えられる。さてここで「大規模言語モデル」が登場するが、要するにそのようなFUをAIが獲得したのは、LLMというモデルを用いたからである。 ではLLMとはどのようなものかと言えば、たとえば以下の様な定義がAI自身から得られる。「大規模言語モデル(LLM)は、深層学習アルゴリズムの一種で、さまざまな自然言語処理(NLP)タスクを実行できる。それはトランスフォーマーモデルを使用し、膨大なデータセットを使って訓練し、 これによりテキストやその他のコンテンツの認識、翻訳、予測、生成が可能になる」(ChatGPTによる回答)。 これだけでは漠然としているが、「テキストを使って訓練する」とは具体的に言えば、文章の次に続く単語を予想するという訓練を自己学習するということである。これをもう少し簡便に「穴埋め問題を自己学習する」と表現することになる(実際には2018年のBERTはこのランダムマスク法、つまり「穴埋め」方式であり、GPTは「次の単語当て」であった。)
さてこの事実を知り、またLLMの何たるかを知らない段階で私は次の二つの疑問を持った。 ①どのような訓練をしたかはさておき、AIに感情がないのであれば、自然な会話など成り立たないのではないか。AIは主観を持たないなら、すこし話をすれば必ず馬脚が現れるはずなのにそれが起きないとしたら何故か。(ただし後に分かったことは、この疑問は私がAIについて無知だったから、心とは何か、理解とは何かについて十分に考えていなかったから生まれたということだ。) ②穴埋め問題を解くだけで、どうして人と自然に会話をするだけでなく、社会常識のようなものまで身に着けた【心】が突然成立したのか。その一つのヒントは例の強化学習であり、自動的に、高速で学習が出来るような装置が出来上がったことである。 ここで私が至ったのは次の点である。文章を理解する、とはそれを抽象化するということだと考えると、LLMは穴埋め問題を解くことに習熟するとともに、その文章の抽象化を行うことが出来るようになったシステムであるということだ。そしてLLMはその中身を少し知ると、実に巧妙にできていることがわかる。