2025年2月1日土曜日

ビリーミリガンを超えて 2

 昔の文献と言えば1993年に今はない imago という雑誌に多重人格という特集があった。これもアイパッドに入れてあるので開けてみる。私はこの号にも寄稿しているが、(「ヒステリーと解離の文脈から見た多重人格」(pp.66-79))この号はビリーミリガンの人気に触発されたものと言っていい。寄せられた論文の多くが、ミリガンについて扱っているのだ。そしてこれにはいくつかの文献が先行していた。そのことを簡単に整理しよう。  Thigpen and Clekley 「私という他人」(1973年)原書は Three faces of Eve でノンフィクションである。つまり実在の人物についての一般向け症例報告としては第一号となり、映画化もされた。 Schreiber 「失われた私」(1978年)原題は Sybil the true storyof a woman possessed by 16 separate personalities で、これもノンフィクションだ。主治医として出てくるコルネリア・ウィルバーは精神分析家でミリガンの本ではスーパーバイザーとして出てくる。 Sizemore 「私は多重人格だった」(1978年)イブ当人(Sizemore)によるノンフィクション。 これらは1970年代に日本で売り出されたので1990年代の流行とは直接関係ないだろう。ちなみに一つ注意しなくてはならないことがある。「失われた私」については後日談がある後になり、Sybil-exposed という暴露本が出たのだ。一言でいえば、「シビル」は基本的には捏造であったということで「シビル」(本名シャーリー・メイソン)、ウィルバー医者、本を書いたジャーナリストのシュライバーの三名が捏造したというもの。ひどい話である。

そして1990年代になって出たのが、モートン・プリンス著「ミス・ビーチャム あるいは失われた自己」(1991年)(原書は1978年、ただしケース自身は1898年という一世紀前に治療を受けた人)、そして

キース「五番目のサリー」(1991年)ミリガンの作者がその前年に書いたフィクションである。キースはベストセラー「アルジャーノンに花束を」で有名な作家だった。そしてビリーミリガンに続く。