2024年6月30日日曜日

「トラウマ本」 トラウマと心身相関 推敲 1

 転換性障害

消えゆく「転換性障害」という診断名 

 MUSに属する疾患の筆頭に挙げられるのは、いわゆる転換性障害であろう。ただし実は以下に述べる事情の為に、最近ではFND(functional neurological disorder 機能性神経症状症)と呼ばれることが多い。しかしここではわかりやすく「転換性障害」という表現を維持したい。
 従来から転換性障害と呼ばれていたものは随意運動、感覚、認知機能の正常な統合が不随意的に断絶することに伴う症状により特徴づけられる。つまり症状からは神経系、ないしは整形外科、眼科、耳鼻科などの疾患を疑わせるが、神経内科(脳神経科)的、ないしはその他の身体科の所見が見られない場合にそのように診断されるのだ。従って通常はこの診断は、他科から精神科に紹介されてきた患者に対して下されることが多い。
 この転換性障害の「転換性」という言葉はかなり以前から存在していた。DSM-Ⅲ以前にも「転換性ヒステリー」ないしは「ヒステリーの転換型」という用い方がなされていたのである。日本の古い精神医学の教科書も大抵はこれらの概念ないしは診断名が記載されていたことを記憶している。
 しかし2013年のDSM-5において、この名称の部分的な変更が行われた。すなわちDSM-5では「変換症/転換性障害(機能性神経症状症)」(原語ではconversion disorder (functional neurological symptom disorder=FND))となった。つまりカッコつきでFNDという名前が登場したのである。
 そしてさらに付け加えるならば、10年後の2023年に発表されたDSM-5のテキスト改訂版(DSM-5-TR)では、この病名がさらに「機能性神経症状症(変換症/転換性障害)」となった。つまりFNDの方が前面に出て「変換症/転換性障害の方が( )内に入るという逆転した立場に追いやられたのである。こうして転換性障害は正式な名称からもう一歩遠ざかったことになる。この調子では、将来発刊されるであろう診断基準(DSM-6?)では転換性障害の名が消えてFNDだけが残されるのはほぼ間違いないであろう。