2024年2月12日月曜日

家族療法エッセイ 4

 日本における母子関係

 私は米国ですでに解離性障害の臨床に関わっていたが、2004年に帰国後に出会うことになった我が国における解離性障害の患者さんの話は、明らかに米国で聞いたそれとは異質という気がした。米国では解離性障害の原因として多く挙げられていたのが、幼少時の性的外傷であり、家庭内での実父や養父による性的外傷が主たる原因とされてきた。しかし我が国のケースでは、母親による影響、いわゆる関係性のトラウマとでもいうべき問題がより深刻に思い得たのである。私は2007年の国際解離トラウマ学会でこの問題に関する演題発表をしたこともあり、その結果を著書で述べた(岡野、2007)。

岡野:解離性障害-多重人格の理解と治療 岩崎学術出版社 2007年。

私が帰国後最初に出会った5人のDIDの方の特徴は3つ挙げられる。

1.幼少時の明白な性的虐待が関与しているケースは一例もなかった。

2.母親による精神的支配や虐待が3名いた。

3.現在(成人後)母親に精神的に支配されているという人が5人中4人いた。

日本において母親の養育態度に問題を見出す立場は数多くあった。町沢(1997)はBPDを中心とした事件例に基づき、わが国では性的外傷は少ない一方で、母親による成熟停止を起こすような過保護が種たるものとした。(のちに町沢本人により一部撤回された。)長谷川(2005)はその著作で、子供の示す精神科的な障害はしつけの後遺症である可能性があり、少子化による母子の孤立化の中での「支配―被支配」の関係に問題があるとする。

町沢静夫(1997)ボーダーライン-青少年の心の病.丸善ライブラリー.

長谷川博一(2005)お母さんはしつけをしないで.草思社.