連載エッセイの11回目を完成させたが、内容は濃いと思うのだが、読んでいてとても読者をひきつけるようには思えない。話が専門的になり過ぎるからだろうか・・・・。
はじめに
全12回の予定のこの連載エッセイも、いよいよ終わりに近づいている。今回のテーマは「脳科学とトラウマ」だ。トラウマをめぐる議論は現代の精神医学において非常に大きな位置を占めている。トラウマ関連疾患や解離性障害は私が臨床で非常に多くかかわるテーマである。そこでこの連載を終える前に、このトラウマの問題についても広く脳科学的に論じてみたい。ちなみに本稿では「トラウマ」とは身体にではなく、心がこうむる外傷(すなわち「心的外傷」)という意味で用いることをお断りしておく。
私たちの生きる世界はトラウマの連続である。ロシア-ウクライナ戦争やパレスチナでの紛争を例に挙げるまでもなく、人類の歴史は戦争や殺戮、略奪、虐待、疫病などの連続であった。そして毎日のようにトラウマを負った人々が生まれていたのである。しかしトラウマに関連する精神医学が米国を中心に注目を浴びるようになったのは1970年代ごろからである。今では精神医学の診断として「トラウマ関連障害」というカテゴリーがあるが、それまではトラウマが精神や脳に深刻な障害を引き起こすという考え自体があまり知られていなかったのである。
前置きはこのくらいにして、「脳科学とトラウマ」というテーマに入っていこう。まず問うてみよう。1970年代以降のトラウマの精神医学は、最近の脳科学の進歩によりどのような影響を受けたのだろうか?
その答えは「実に大きな変化をもたらした」である。そしてそれによりトラウマの犠牲者となった人々を救う手段も大きく進歩したのである。
現代の精神医学では、トラウマは脳に明らかな変化を及ぼすことは常識といっていいだろう。先ほどトラウマを「心がこうむる外傷」と述べたが、トラウマのありかは脳なのだ。そしてそれが心のあり方に甚大な影響を与えるのである。
以下略