2023年11月20日月曜日

脳科学と小児臨床 11

 このように右脳の機能および愛着トラウマによる右脳の機能の障害を論じたが、この議論は当然導くのが、愛着トラウマによる右脳の機能不全が後の左脳の過剰代償と組み合わさった場合に何が起きるかという議論である。具体的には次の二つのことが起きる可能性がある。

● 情動を伴った、対人間の関りに裏打ちされた言語機能の未発達。
● 極端分析的で、秩序や細部へのこだわり。

   そして言うまでもなく、これはASDの病態そのものではないか。しかしこう考えることは次の疑問を呼ぶ。発達障害は生まれつきの問題ではなかったのか。という事は、ASDは生まれつきの要素以外にも、環境による右脳の発達不全を素地とする可能性は考えられないか。

自閉スペクトラム症が「機能性離断症候群」である可能性


何らかの器質的な要因以外の原因で右脳の機能が切り離されている状態として自閉スペクトラム症をとらえることは出来ないだろうか?というある意味では当然すぎる疑問については、それにこたえるような論文がある、

Melillo R, Leisman G. (2009) Autistic spectrum disorders as functional disconnection syndrome. Rev Neurosci. 2009;20(2):111-31.(機能的な離断症候群としての自閉スペクトラム症)

抄録を訳してみよう。

 「左右脳の機能的な離断による右脳の活動やコヒーレンス(位相の揃い具合)の低下が、ASDのすべての症状や交感神経の活動上昇を説明するのではないか。もしASDの問題が、脱同期化と左右半球間の情報換の無効化であるならば、治療は脳の各部分の協調にあるだろう。その治療としては、体性感覚的、認知的、行動的、生物医学的な手法を含む様式横断的 crossmodal なアプローチになるだろう。片側刺激により視床皮質路の一時的な振幅を増し、十分な半球の振幅に近づけることが出来た。こうすることにより両半球の情報交換を高めることが出来ると考える。」(ちょっと手を抜いた。)