2023年9月24日日曜日

現代的な心身医学 文字起こし 4

 Yips (局所性ジストニア)

 さて次はイップスです。おそらくこの病名を聞いたことがないという方も中にはおられるかもしれませんね。イップスは「今まで問題なくできていた動作が突然もしくは徐々にできなくなるもの」であると定義されるものです。私はこれをMUSの例に含めるべきかかなり迷いました。というのもこのイップスも様々な分野で別々なものとして扱われるものの典型と考えることが出来るからです。

 イップスについては、ゴルフ、野球などのスポーツに関するもの(スポーツイップス)、弦楽楽器、管楽器などの演奏に関するもの(音楽イップス)が知られています。それまで半ば自動化されていた体の動きが損なわれ、本来の動作が再現出来なくなってしまう症状を呈します。熟練したプロでも発症してしまうのが特徴ですが、もちろん初心者にこの症状が起きないという保証はありません。そしてスポーツ選手にしても音楽家にしても、一旦これにかかると職業声明を失いかねないほどの重大な影響を及ぼすため、非常に関心を寄せられています。さてこのイップスは現在では様々な神経学的研究がなされ、focal dystonia として神経内科で扱われるようになってきています。
 ところでこのイップスもまた心因性のものと「誤解」されてきたという歴史があります。そしてそれが現在進行形で起きているのです。例えばこれは日本イップス協会という組織のホームページから引用したものですが、次のようにあります。

「イップス(イップス症状)は心の葛藤(意識、無意識)により、筋肉や神経細胞、脳細胞にまで影響を及ぼす心理的症状です。スポーツ(野球、ゴルフ、卓球、テニス、サッカー、ダーツ、楽器等)の集中すべき場面で、プレッシャーにより極度に緊張を生じ、無意識に筋肉の硬化を起こし、思い通りのパフォーマンスを発揮できない症状をいいます。」(日本イップス協会HPより。)

この心理的症状という表現が実は非常に誤解を呼ぶものです。ここには「無意識」などという表現も出てきて、いかにこの状態が心の病かということを強調しています。平孝臣先生はその著書(平孝臣(2021)「そのふるえ・イップス 心因性ではありません.法研 2021年」)の中で、イップスは心因性ではない、と以下のように明確に述べていらっしゃいます。
 「イップスやふるえは長年「心の問題」とされてきましたが、現在では脳内の運動機能をつかさどる神経回路の機能的異常から起きるもので、脳の手術で劇的に改善することがわかってきました。」

私はイップスの専門家(一人はイップス協会の会長、もう一人は医学者)の意見がここまで違うことに非常に興味を覚えます。そしてやはりイップスはMUSのお仲間入りにすべきだと思います。というのもその振る舞いはまさに、MS/CFSやGMと一緒なのです。