2023年8月25日金曜日

複雑系の脳と心 1

 複雑系としての脳

 心について脳の観点から考える際には、まず話を複雑系というテーマに戻さなくてはならない。というのも脳はそもそも複雑系だからだ。ここで言う複雑系とは、それを構成する部分の間の交流が、部分そのものの性質からは予測できないような新たな性質を生むような系(システム)である。
 ところでこの複雑系という概念と少し似ており、半世紀前に一世を風靡した概念がある。それがいわゆる「構造」である。構造主義という言葉をお聞きになった方は多いだろう。筆者が大学生だった頃は、この「構造」の概念がもてはやされていた。クロード・レヴィ=ストロース、フェルディナンド・ソシュール、ルイ・アルチュセール、ジャック・ラカン等の名前が浮かんでくる。日本でも「構造と力」を書いた浅田彰氏等は時代の寵児のような扱いをされた。
 構造の概念自体は非常にダイナミックであるが、そこで生じる動きには一定のルールや法則が想定されていたというのが私の印象である。それに比べて複雑系システムにおいてはそこで起きていることが複雑すぎて、そのルールを知ることが出来ないというニュアンスを持つ。「構造」の場合はその仕組みを探求し、解明しようとするという私たちの意図があったが、複雑系の場合はむしろその様な努力を諦めているようなところがある。例えば「人体」は複雑系だが、そこでの法則を私たちは一律に知ろうとするだろうか?