筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群
(ME/CFS, Myalgic encephalomyelitis /chronic fatigue syndrome)
休息により消失しない疲労や倦怠感を主たる特徴とします。私達は少し疲れても休息すればエネルギーを回復します。ところがそれが起きないわけです。以前は心因性の疾患や詐病を疑われたのですが、1990年以降、様々な医学的所見が指摘されるようになりました。
ちなみに筋痛性脳脊髄炎 (ME)という呼び方は欧州とカナダで、慢性疲労症候群(CFS)はアメリカとオーストラリアで用いられることが多いそうです。
最近では生物学的なマーカーがいろいろ発表されています。PET,MRI,などの脳画像研究により、白質、灰白質の異常が見出だされ、心因では説明できない認知機能の異常が指摘されるようになったのです。またエネルギー代謝系やミトコンドリア機能の障害を示すエビデンスが見出されるようになってきています。これはちょっと何かにエネルギーを使うと疲労困憊してしまう、というこの病気の特徴をうまく説明しているでしょう。また「自律神経受容体に対する自己抗体に関連した脳内構造ネットワーク異常」(NCNP、2020年の研究)が報告されてもいます。
線維筋痛症 fibromyalgia, FM
こちらは広範囲にわたる筋骨格系の痛みを主たる特徴とする疾患です。私の記憶では、昔は線維筋痛症はCFSと一緒に論じられていた感がありますが、現在は独立して論じられているのです。しかしFMとME/CFSとの異同があまり明確でなく、両者は結局は中枢神経系の過敏性ということで共通しているらしいという印象をどうしても受けてしまいます。
両者は痛みや疲労以外にも光、臭い、味、触覚、音、薬物への敏感さも含み、また片頭痛、IBSなどの関連も指摘されています。
ただしFMは、リューマチ・膠原病科により扱われるのに比べて、 ME/CFSの方は神経内科などが扱う傾向にあります。その意味でFMとME/CFSは「異なる科で別物として扱われる例」の一つと言えるのかも知れません。
心因性非癲癇性痙攣 (PNES psychogenic non-epileptic seizure)
PNESは神経疾患の中で長年十分注意を払われずにいましたが、その多くが真正癲癇と誤診されてきたことが最近になり改めて認識されるようになったという経緯があります。癲癇重積発作として専門家に送られてきたケースの25%は実はPNESであったというデータもあります。従来癲癇は、臨床所見だけで(脳波検査をせずに)診断が下される傾向にあったことが誤診の理由の一つであるといわれます。(EEG-Videoという機器を備えていない医療機関が圧倒的に多いという現状があります)。また脳波についての専門的な知識の少ない医師が脳波を見ると、ちょっとした異常も癲癇と診断してしまうという問題もあったようです。
また一つ気になるのはPNESは神経内科で診断されたのちは精神科にリファーされる傾向にあることです。これは後に述べるように、やはり両方の科で見るべき疾患ではないかと思います。
ちなみに興味深いことに、神経内科ではPNESと解離との関連はほとんど論じられない。PNESもまた、「異なる科で別物として扱われる例」と言えるでしょう。