2023年7月8日土曜日

レジデント向きテキストの原稿 「変換症」2

 診断に関連する特徴

上記の診断基準に見られるとおり、本症は神経疾患や内科的疾患の存在を疑わせるような様々な身体的な症状を取り得る可能性がある。そのために鑑別が難しく、他の身体疾患の除外も念入りに行われなくてはならない。また従来は発症に際して心因やストレス因が見られることが前提とされ、そこに疾病利得や症状への無関心さがみられることが特徴とされてきたが、これらの存在は本症に特異的ではなく、これらを診断基準とすることが本症への偏見につながるとの懸念から、DSM-5やICD-11では診断基準から省かれるに至っている。
  変換症の発症は思春期~青年期早期であることが多い。発症は急激である事が多いが、その後の経過はケースにより異なる。通常は二週間程度以内で症状は収まるが、再発も多い。発症の際に明確なストレス因が見られない場合にも、症状そのものによる社会生活および家庭での生活への支障は極めて大きいものとなる可能性がある。
 性差は女性に2倍多いとされる。また男性の場合、職業上の何らかの事故が発症に関連していることが多い。子どもにおける症状としては、歩行困難やけいれん発作が最もしばしばみられ、その背景にいじめや学校ないし家庭におけるストレス等がみられることが多い。

治療的な関り

本症は患者がその正確な診断と説明を受けることは治療の第一歩であり、また本症に伴いやすい誤解や偏見を取り除くことにもつながる。症状自体は再発の可能性が低くないものの、当座の症状は自然に消退することが多いことを患者に伝え、また身体症状そのものがどの様な理由で生じるかについてはまだ不明な点が多い点についても率直に伝えるべきであろう。そしてその症状による苦痛は深刻である可能性があることを治療者側や家族も患者と共有することが重要である。
 治療においては安全な治療環境や治療関係の提供を優先し、特にストレス因が明らかな場合は、その処理に向けられた精神療法的なアプローチが治療の根幹となり、またストレス軽減をめざした環境調整も重要となる。変換症状そのものに有効な薬物は知られていないが、その症状の性質や程度に従い、内科や神経内科、症状によってはペインクリニックの併診が望ましい。また併存症として気分障害やPTSD、物質依存が見られる場合は、それらへの薬物療法も本症の症状の軽減に役立つことが多い。