3.表出的-支持的スペクトラムという考え方
このPRPによる研究結果は、それまで無条件に受け入れられていた精神分析的な治療理論の優位性を問い直す契機として当時の米国の精神分析家たちに大きく立ちはだかったことになる。そしてそれはいくつかの貴重な教訓をもたらしたのである。
一つには自由連想と解釈を中心とした純粋な精神分析は理念上でしか存在せず、実際の臨床場面ではそのスペクトラム上の様々な介入がなされているということである。そしてそこに表出的であることがより良い治療手段であり、支持的な介入は劣るという考え方の根拠がないということであった。すなわち「できうる限り表出的であれ、そして必要とされるだけ支持的であれp.688)」を信じる根拠はないということである。この点に関してWallerstein
は「支持的療法による構造的な変化が、表出的療法により得られたそれに比べて永続性がないという証拠はない」と述べている。Wallerstein
は次のように述べる。「すべての治療は常に表出的でありかつ支持的である。彼はまた次のようにも述べる。「問題はいつどのように表出的で、いつどのように支持的なのか、ということなのだ。Wallerstein1986,
p.689」」
G.O. ギャバード著、奥寺ほか監訳 (2019) 精神力動的精神医学 第5版 岩崎学術出版社(G.O. Gabbard (2014) Psychodynamic Psychiatry in Clinical Practice. Amer Psychiatric Pub Inc.
Gabbard の表出的—支持的精神療法においては、治療の設定そのものも治療関係や治療の文脈によりさまざまに決定されるとする。例えば治療の頻度や持続期間もケースバイケースであるが、6か月以上に及ぶものを長期PATとするという。
ただし治療頻度に関してはGabbard は従来の精神分析的な考え方を踏襲する傾向にある。そして治療において表出的であるほど、セッションの頻度は高くなる傾向があるという。その中でも最大限に表出的な療法としての精神分析が位置付けられ、そこでは週に3,4回のセッションがカウチを用いて施される。そして主として表出的な精神療法は週に1から3回のセッションでカウチを用いることなく行われる。それとは逆に主として支持的な精神療法は週に一度以上の頻度で行われることはほとんどなく、ときにはひと月に一度の場合もあり得る。また臨床経験から明らかなのは、頻度と転移とは関係していることが多く、表出的な治療では転移に焦点づけることが多いため、週に一度以上の頻度が望ましいとしている。