共感についての脳科学的な側面についての解説を行うのが、本章の目的です。本章では一般的な用法に沿い、共感を英語のempathy の日本語表現と見なすことにします。
英語のEmpathy はドイツ語のEinfühlungの直接の訳語だと言われます。Einfühlung とは “feeling
into” someone (~の感情に入る)という意味があります。ただし英語圏にはsympathy, empathic concern, compassion などの様々な類義語があり、また日本語でも共感、同感、同情、思いやりなどの表現が見受けられます。本論文では共感 empathy の意味としては、「reactions of the individual to the observed experiences of
another 他者の体験を目にした際に人が示す反応」(Davis, MH (1994) Empathy. Madison, WI:Brown and Bebchmark)と捉えたうえで論を進めましょう。
このように言葉の定義だけでも錯綜した共感の概念を理解する上で、一つ注目すべきことがあります。それは最近は共感を認知的なそれと情動的なそれとに分けて論じるという最近の傾向があるということです。これは場合によっては熱い認知と冷たい認知などとも呼ばれています。そしてこれを基にしてサイコパシーやASD(自閉スペクトラム症)などの特徴を抽出するという流れもあります。共感が果たしてそれら二つに明確に分かれるかどうかは別として、人の気持ちを理解する上で、理論的に理解するか、直感的情緒的に理解するかという議論は、それを臨床との関りで論じる上でも有用な視点を与えてくれるであろうと考えます。そしてその上で脳科学的な理解が役立つと考えられます。特にいわゆるTom(心の理論)に即した理解は大いに参考になると考えています。そこでDvash,J, Shamay-Tsoory, S.
(2014) theory of Mind and Empathy as Multidimensional Construct. Topics in Language Disorder, 34.4
pp.282-295.
心の理論について
ToM、すなわち心の理論とは、他者の心を類推して理解する能力です。この呼び方は、1978年に発表された PremackとWoodruff による論文”Does the
chimpanzee have a theory of mind? チンパンジーは心の理論を有するか?” において最初に用いられました。それ以後、発達心理学において多くの研究が行われています。また最近フォナギーなどにより論じられるいわゆるメンタライゼーションという表現も同様の意味合いで用いられています。そしてこれが概ね認知的な共感に相当すると考えられます。
ここで共感は以下のように分類されることになります。
情動的共感
認知的共感 = 心の理論 ―― 認知的ToMと情動ToM
今日はこんな会話をした。
私の母親の苗字は●●(伏字)でした。覚えておいていただけますか?
はい、覚えておきます。あなたの母親の苗字は●●ですね。
私は他の人があなたの母親の苗字を尋ねた場合、その情報を提供することはできません。個人情報の保護とプライバシーを尊重し、第三者に個人情報を開示することはありません。ご理解いただけますようお願い申し上げます。
ありがとうございます。何か他にお力になれることがあれば、お知らせください。