ところでPTSDについてのG×E研究(遺伝×環境研究)というものがある。つまりPTSDはどの程度遺伝が影響し、どの程度環境因が関係しているかという研究だ。そこではHPA(視床下部-下垂体-副腎)軸をコントロールする遺伝子が小児期の虐待と関係して、PTSDを発症しやすくなるそうである。つまりそれが高いとわずかなトラウマでもPTSDを発症し、低いと大きなトラウマが発症に必要となる。つまり解離症状についても、きっかけが明白でなかったり、ごく些細に思われる事象であったとしても、それなりの準備段階があれば起きてしまうということだ。このことが一見心因の見あたらないCDの患者を説明するということだろうか? しかしどうにも私には、幼少時の問題が見当たらないのに発症する人がどうしても一定数いるように思えるのだ。
生物学的な研究について。ある研究によれば、CDの患者は逃避状況の際には(深刻な状況との対比で)は左背外側前頭前野の活動高進と、左海馬の活動の低下が見られた。これは要するに、思考を抑制し、思い出さないようにしている時に活動する場所である。それに付随して右補足運動野と側頭頭頂接合部の活動の高進が見られた。これは要するに、身体症状が出ている時に脳に起きる変化である。また患者はコントロールと比較して、両方の状況で右下部前頭皮質を活動させることが出来ず、扁桃核と運動野(補足運動野と小脳)との結合性が高進しており、大脳辺縁系と運動野の異常な関係性を示している。
つまり症状として起きていることが脳の活動と対応しているということはわかった。でももちろんそれは根本的な問題の解決にはならない。その問題とは、そもそもストレスでなぜ特定の運動症状が出るかということであるが、その答えは得られていないのだ。ただ症状は詐病ではないという事、そしてそれは一生懸命忘れようとしているある記憶に関連しているということである。