2023年1月17日火曜日

ある書評 2

 ○○先生の「○○○○と出会ったら?」(○○○○社、2022年)を楽しく拝読した。本書は精神科医でかつ一流の脳科学者であり、さらに精神分析家でもあるという非常にユニークなキャリアをお持ちの著者による、とても読み応えのある書である。私も同様に脳科学と精神分析の双方に興味を持つという事情があり、こうして書評をさせていただく光栄に恵まれた。
 筆者の素晴らしいところは、脳科学者としての基礎をじっくり積まれ、一歩ずつ確実な業績を積み上げられている一方では、精神分析においてもたゆまぬ努力を注がれ、精神分析家という資格をお取りになった点である。つまり両分野においてそれぞれ本格的な業績を挙げられている、本当の意味で二刀流なのだ。そして双方の分野は筆者の中で互いに深く連関し、相互が影響を及ぼし合い、結果として脳科学と精神分析との融合が目指されるという壮大なスケールでの活動に携わっておいでである。
 脳科学の研究と言ってもその分野は幅広いが、著者が早いうちから出会い、魅了されていくのが神経膠細胞の一種であるミクログリアだ。このミクログリアについての研究は最近では目覚ましく、それが脳全体の働きや病理性にかなり大きな影響を与えるということが分かって来ているという。特に著者はそれがトラウマやうつ病、日本人のメンタリティ、引きこもりなどの精神の病理と深く絡んでいるという可能性を考え、これまで知見をもとにさらに大胆な仮説を打ち出しては実験により実証していく。その発想の柔軟さといい、それを大胆に実験により検証していくという行動力といい、とても常人には真似できないことのように思える。それを筆者は軽々と、それも好奇心の赴くままにこなしていく。そこには彼の限りない好奇心と常識にとらわれない創造性が満ち溢れている。

ここで本書の内容を簡単にまとめてみよう。(省略)


本書に関していくつかの感想を述べたい。

 まず本書が提案している図式、すなわち脳の疾患のあるものは炎症モデルと考えることが出来る、という点については全く同感であり、このミクログリアの関与により随分納得がいった。私の臨床の関心の一つは解離性障害であるが、あるきっかけで一つの状態からもう一つの状態に急激に遷移する精神疾患はあまりない。うつ病も統合失調症もじわじわとはじまり、薬物その他によりじわじわとおさまっていくところは、確かに一種の炎症反応が起きているような状態である。ところが解離性障害では一種のスイッチングの様な状態が生じるのだ。ミクログリア説はこれを見事に論証してくれるのだ。

 これは疑問というより感想であるが、加藤氏の研究はフロイトの理論を準拠枠にして、それに対しての批判を加えることを意図していない。フロイトの「生ける小胞」にしても、リビドー論にしても死の欲動にしても、フロイトが将来を見据えていてただ十分に言葉に直せないものの感じ取っていたものをミクログリアの見地から説明するという形を取っている。つまりフロイトは脳科学的に生じていることを既に感じ取り、予言していたという前提がある。それは神経精神分析の視点とも通じていると言えよう。そしてそれとは別に、脳科学的なエビデンスがフロイトの見解を否定するという立場とは異なる。