2022年12月21日水曜日

ICD-11における解離症

 ある学会発表のための抄録を書いた。

 解離症はその診断や治療に関して、いまだに精神科医により異なる見解が示されることの多い精神障害である。1980年にDSM-Ⅲに掲載されて以来、幾つかの変遷があり、ICD-11においてそれまでの定義(2013年のDSM-5も含む)からいくつかの変更点が加えられ、より一貫性を有する臨床的に有用な診断基準に至ったと考えられる。ICD-10 からの変更点としては、解離症の分類が大幅に改良され、それまでは「その他の解離性障害」のもとに多重パーソナリティ障害として位置づけられていた解離性同一性症が一つの独立した診断として示され、その不全形ともいえる「部分的解離性同一性症」も加えられたこと、また解離性遁走が解離性健忘の下位診断として捉えなおされたこと等が挙げられる。また従来の転換症が解離症の一つとして位置づけられている点はICD-10 と変わらないが、転換 conversionという表現は消えて「解離性神経学的症状症」という表現となったことも目新しい点である。またICD-10ではF48.1として解離症とは別に分類されていた離人症と現実感喪失症が解離症に組み込まれた。さらに解離症に分類されてはいないながらも、解離性の症状を示すいくつかの精神障害もある。PTSDにおいては解離性フラッシュバックという表現がなされ、新たに加えられたCPTSDとともにトラウマ関連障害における解離症状が明確に示された。またパーソナリティ症における特性の一つであるボーダーラインパターンにも、DSM-5に準じて「一過性の解離症状または精神病様の特徴」が記載されている。