2022年12月1日木曜日

脳科学と心理療法 デフォルトモード 2

  ここでデフォルトモードを一番イメージしやすい状況を説明しよう。皆さんはいわゆる「感覚遮断タンク」に入っている。暖かい(というか体温と同じなので、温度を感じない)無音で真っ暗な水の中に身を横たえる。どこからも刺激が入ってこない。そこであなたはあえて何かについて考える、という努力をしないように言われる。と言っても全く何も考えてはいけないというわけではない。ただあるテーマについてことさら頭を集中させないということだ。これはおそらくかなり純粋に近いデフォルトモードに脳を置くことである。さてあなたは当然何かを考えるし、何も見えていない視界に何かを見ることになる。司会に注意を払うとおそらくあなたは何かの形をとらえるはずだ。しかしそれはどこからか与えられた形というよりは内部から浮かび上がってくるものだ。そのうち人によっては何らかの形が実際に見える感覚にもとらわれるかもしれない。
 ここで面白いのはあなたの見えるものは全く何も形のない暗黒では決してなく、またあなたの耳で起きていることも全くの無音ではないということだ。そこで何らかのノイズに似た何か、昔のブラウン管テレビ(死語だろうか)で何も映っていないときに見られる砂嵐のようなものだろう。そう、デフォルト状態でも脳は何かをしている。そしてそのうち何か予想もしないイメージが浮かび上がってくるかもしれない。無の状態のはずの心から、である!!そう、脳は「無」を嫌う。というよりその隙間をすぐ何かで満たす。この感覚遮断が続くと、多くの人はある種の幻覚すら体験するようになるのだ。
 いわゆる「シャルル・ボネ症候群」では、視覚や聴覚を病気や事故などで遮断されると、そこにありありと幻覚を見るようになるという現象である。また似た状況に、いわゆる「自生思考」がある。皆さんも入眠の間際の不思議な体験に気が付いた方がおられるかもしれない。ちょうど寝入りばなに心には意味がないながらも形を成した思考や表象が生まれることがある。それをひとりでに生み出される思考、という意味で自生思考というのだ。そう、デフォルトモードには創造の力が備わっている。というよりは創造はデフォルトモードからのみ生れるといってもいいかもしれない。