2022年7月11日月曜日

不安の精神病理学 再考 2

 ところでここでもう一冊、とても力強い底本を確保。たまたま一章を書いたことで出版社から献本されていたものだ。講座精神疾患の臨床 3 松下正明、神庭重信監修 不安又は恐怖関連症群、強迫症、ストレス関連症群、パーソナリティ症 の第4章「パーソナリティ症及び関連特性群 総説」高価でとても手が出ない。17600円。なぜこんなに高いかと言うと、たいてい全国の精神科の医局で全巻揃えて購入されるからだ。個人で買える人は少ない。
 そこで不安又は恐怖関連症群 総説(大川翔、清水永司先生著)を拝読すると、こんなことが書いてある。「不安という概念は古く、・・・現在の様な病名としては出てこなかった。・・・アメリカの神経学者であるGeorge Beard により提唱された神経衰弱neuroasthenia の概念が広く浸透し、不安に関連する疾患はほとんどこのカテゴリーに属していた。(p.4) そしてフロイトもこの神経衰弱という概念から不安に基づく概念を取り上げ、不安神経症と名付けた、とある。そうか。不安神経症はフロイトの言葉か。面白い。フランス留学当時(1986~7年)やはりパリで「プシカステニー」つまり神経衰弱という言葉をよく聞いた。不安に駆られて日常の生活がままならず、怯えて抑うつ的になっているような人々を、「神経衰弱」という便利な言葉でくくることが出来ていた。つまりそこにあるのはある種のエネルギーの欠乏であり、不安はその症状の一つと言うニュアンスがある。たしかに不安症状を抱えている人はそれ以外の様々な身体症状や気分障害を抱えている。もちろんそのような複合的な症状を呈している人が臨床家のもとを訪れるのであるが。
 ともかくも不安症の概念に大きく貢献した。不安神経症、神経衰弱、心気神経症を現実神経症に、そしてヒステリー、強迫神経症、恐怖症、自己愛神経症は例の精神神経症に含まれる、としたのだ。そうか、彼の分類がその後の精神医学における分類の下書きになっているのか。ところで現実神経症とはどういう意味かご存じだろうか。要するにフロイトによれば現在の性生活上の問題が影響しているということを意味するのだ。