2022年7月2日土曜日

パーソナリティ障害 概論 5

 疫学部分について書き始めた。依然として林先生への依存度が高い。

PDに関する疫学的なデータはまだ十分とは言えないが、それはPDの疾病概念や定義、分類などに関する識者の意見が一致していないこととも深く関係している。ただしディメンショナルモデルに従えば、特性についての疫学的な研究の蓄積もあるため、PDの遺伝との関りはより明らかに示される。一般的にはPDの基礎には遺伝的要因が深く考えられる。PDの特性領域の遺伝性は約50%とされ、また特性側面はそれより低いと言われる(赤134(特性領域と特性側面の両者の区別は大切である)

Jang,KL, Livesley, WJ, Vernon, PA et al.1996Heritability of personality disorder traits: a twin study. Acta Scand 94: 438-444
ここら辺はやはり林直樹先生のまとめから借用することになる。Torgersen の双生児研究では、PDの遺伝率は0.50.6%とされる。林先生はSilverman の家族研究のデータも挙げている。ディメンショナルモデルへの注目はこのような見方をさらに裏付けるものと思われる。また反社会性、ボーダーラインでのセロトニン系の機能低下ということが言われている。以下が引用文献。

 Torgersen S, et al. (2000) A Twin study of personality disorders. Compr Psychiatry .  41 (6): 416-425.

Silverman JM, et al (1991) Affective and impulsive personality disorder traits in the relatives of patients with borderline personality disorder. Am] Psychiatry 148: 1378-1385.

そしてもちろん同様に重要なのは環境因であり、そこに虐待の問題が絡んで来る。1990年代にはBPDの成育史の後方視的研究が行われている。これについては「林直樹(2010)境界性パーソナリティ障害の成育歴・現病歴・家族関係 精神科治療学.251459-1463」という優れた論文があるので、これを引用しない手はないだろう。また最近ではCPTSDの話題が尽きないが、これなどはPDと生育環境の直接的な関係性を論じていることになるだろう。