ところでNの候補としては、ダイナミックコア以外に、Baars のグローバルワークスペース global workspace の理論を挙げることもできる。この説でもやはりNCCは広範囲での神経活動である。グローバルワークスペースについては、太田紘史(2008)現象性のアクセス 哲学論叢 35:70-81に以下のようにまとめられている。
Baars (1988, 1997)が提案するグローバルワークスペース説によれば、人間の認知システムは、多数の神経表象媒体と消費システムからなり、両者は同時並行的に成立している。それらはそれぞれ特定の処理機能を有し、無意識的に作動する。それと意識的な内容の表象の違いは、前者が特定の消費システムにお いてのみ処理されるのに対し、後者は、任意の消費システムによって処理されることが可能だということである。つまり表象内容が意識的であること は、それが「ワークスペース」に入り、様々な消費システムに対して放送されることで利用されうるということだという。Dehaene ら(Dehaene & Nacchache, 2001, Dehaene, et
al., 2006)は、そのワークスペースの神経基盤を提案しているが、それによると、「情報」(表象内容)は報告可能になるのは、刺激強度に依存する感覚皮質の活性化(神経表象媒体の活動)と能動的注意により形成される高次連合野との「反響的神経アセンブリ」(大域的神経活動)が生じるときであり、この大域的神経活動は、前頭葉の高次連合野に密に分布しており、各感覚皮質領域との双方向の長距離接続を有する神経経路によって可能になる。そうここでも双方向性が重要となるのだ。この神経経路を通じることにより神経表象媒体の活性が強化されて持続し、その表象内容が様々な消費システムによって利用可能と なる。すなわち「例えば視覚皮質が活性化されるだけでは、その視覚内容は意識的にはな らない。活性化した視覚皮質の内容が、様々な消費システムにとって利用可能となること で、意識的となる」。(pp3~4)
このグローバルスペース理論はDCと似たようなニュアンスを受ける。つまりここで問題になっているのは、意識的な活動とは、広域の神経ネットワーク全体に放送
broadcast されるような情報であり、それは各感覚皮質と前頭葉の高次連合野との間の双方向性の情報交換であるという。すなわちDCと同じような考え方だが、DCの場合は視床と大脳皮質との間の双方向的、反響的な情報のやり取りであると特定している点が特徴的と言えるだろうか。