S山:あと交代人格と会わないと、抑えられていた分が体に出るんですよ。ある患者さんがもう手がガチガチに固まっていてちっとも良くならない患者さんがいました。その方に「もう一人の自分と関係してるんでしょ?」とか言うと、どうもそのようだ、と。それで「じゃあ出てきなさい」と言うと出てきたんです。
岡野 最初に「出てきなさい」とおっしゃったときは、勇気が必要ではなかったですか?
S山 いやいや、怖いもの見たさですよ。
岡野 これはS山先生の秘密ですが、研修医時代に患者さんに催眠をして、上の先生に怒られたという事があったんですよね。ここオフレコね。
S山 精神科医になったのも同じことがあってちょっと心の中を覗いてみたいっていうのがあったんですよ。
岡野 もともとそういう素質があったわけですね。
S山 だから人よりあまり心配しないんですよ。何かいいことがあるだろうと思うんですよ。解離の場合も、もちろん色々予測してないといけないけれども、体の症状があった人が、人格さんが出てきたおかげでもう一挙にその症状が取れちゃうんですよ。そういう体験を色々してるので「出てちょうだい、」と。 もちろん色々考えますよ。気楽にやってるわけじゃないんだけれども慎重さはちょっと人より少ないかもしれないですね。
岡野 フロイトとフェレンチの違いという事があって、フロイトは別人格を認めずに、フェレンチは認めたわけですが、フェレンチはもともと遊び心があったんですよ。
S山 それは大事ですよね。でも若い人は僕の言葉の一部だけ取って鵜呑みにしないでくださいね。
岡野 ここでひとつ先生方に質問をさせてください。いつもの患者Aさんと 話していたとしましょう。ところが途中からちょっと口調、声のトーンが変わってきました。あれ?と思います。ちょっと違うな、と。その時にどんな声かけをしますか、それとも特に声かけませんか? 取り合わない人はそのままでしょうが、どうでしょう、今度はS山先生から。
S山 えっ。… 僕なら「きみ誰?」と。(笑い) それによっていろいろな全体像が分かるんですよ。
岡野 でも患者さんによっては「どうしてそんなことをおっしゃるんですか?」と。
S山 言わない、言わない。
岡野 いや、私の患者さんでそうおっしゃった方がいました。N間先生、いかがでしょうか?
N間 私なら、「今もAさんですか?」と尋ねると思います。その時にS山先生も仰ったことですが、S山先生のユーモアとか岡野先生の遊びと言ったことは大事で、そこで真顔で言ったりするとうまく行かないので、「もしかしたら…」とか「こんなことを聞くのはナンですけれど」と言いつつ向こうの反応を見る、こちらの不安を隠さずに聞いてみるのがいいと思います。
S山 N間先生は僕より配慮をなさいますね。僕の場合は突撃型というか。
N間 まあちょっと笑いながら言うとかね。もちろんその時の流れにもよりますし、向こうがめっちゃ怒ってたらあまり聞けませんけれど、それでも「こんなこと言うの変ですけど」っていうのもいいかもしれません。真顔でストレートにどうですかって聞いてイエスかノーか聞くというよりもその反応と言うかねこっちもちょっと不安になったんだけどそれも伝えるしあなたはどう思いますかっていうのはやり取りのきっかけとして。
岡野 M笠先生、お聞きになっていかがですか?
M笠 僕は境界性を念頭に置いているので、「どうしたの?」みたいな、まあ素朴に僕の思った疑問をそのまま言葉に出すかなと思います。