2021年11月20日土曜日

解離における他者性 50

 ところでここで離断症候群や「他人の手症候群」の研究が精神神経学の分野でどこまで進んでいるのかに興味を持った。そこでネットに公開されている論文を読んでみた。精神神経学雑誌という、日本で一番権威のある学術誌に京大精神科の3人の先生が連名でお書きになっている総説論文がある。そこでそれを読んでみたが、結局情報としては少なかった。昔から欧米の文献でもDisconnection 仮説と言うのはあったが、圧倒的にそれは統合失調症の研究という文脈の中で出てきたという。Crow,Ttranscallosal misconnection syndrome,Friston, KJ disconnection hypothesis などが有名らしい。Crow

の論文は1998年、Friston は2016年だ。なんだ随分最近ではないか。
解離を扱う立場としては、Disconnection が一番問題になるのは解離性障害だと思うのだが、そもそも心の中で連絡が途絶える状態、スプリッティングと言われる状態は、従来統合失調症と結びつけられれてきたという歴史的な経緯がある。1911年にBleuler が提唱した連合弛緩 loosening of association は統合失調症に関するものだった。と言うより統合失調症という言葉自体がむしろ解離を意味するものと言える。さらにはschizophrenia のもとの役は「精神分裂病」だったが、ここにも「分裂」というニュアンスが含まれている。「心が分かれてしまう病気=精神病=統合失調症」という等式はもう100年以上の伝統を背負っているのである。しかし「Disconnection Disconnection 仮説」の著者である京大の先生方は、この等式があまり妥当性がないという雰囲気でこの総説をお書きになっている。それでいて「むしろ解離だ」という言葉も出てこないので、少しがっかりした。

Crow, TJ (1998) schizophrenia as a transcallosal miscommunication syndrome, Schizophr Res. 30;111-114
Friston, K, Brown, HR, Siemerkus, J et al: 2016the disconnection hypothesis. Schizophr. Res. 176:83-94
植野仙経、三嶋亮他 (2018Disconnection Disconnection 仮説. 精神神経誌. 12010号 pp897903.