ダイナミックコア仮説と DID
これ以降は、交代人格が互いに他者性を有しているという事実の傍証として考えられる生物学的、脳科学的な仮説を提示する。分かりやすく言うならば、個々の交代人格が固有の脳科学的な基盤を持っていれば、相互の個別性、他者性は保証されるであろう、という主張である。そのために Gerald Edelman, Giulio Tononi (2000)の両氏が提唱する「ダイナミックコア (dynamic core, 以降DC) 仮説」を紹介したい。これは彼らが人間の意識を成立させる神経ネットワークとして想定したものである。彼らはこのモデルをもとに、なぜ意識が主観的な感覚、ないしはクオリアを有するのか、それがコンピューターによるシステムにどのように類似するのかについて考察している。
Edelman らは意識として二つの特徴を上げる。一つは統一性 integration であり、意識は一度に一つのタスクしかできないことだ。例えばある会話を続けながら足し算をするなどという事は出来ない。それでいて極めて分化した作業をできることである。つまり私たちの脳はとても複雑な作業をしながら、統一性を失わないことだというのである。この点はかつてSherrington
やWilliam
James が強調したことである。Charles Sherrington (1906) The Integrative
Action of the Nervous System.
William James (1890) The Principles of Psychology.
New York: Henry Holt.