2021年10月12日火曜日

解離における他者性 20

 ちなみにフロイトはこれを「ドラ」(1907)における注釈において、ダメ押し的に「類催眠状態」への自分の関与を否定している。私自身がスタンダードエディションの問題の個所を以下に訳してみた。
 性的外傷説を私は棄却したわけではなく、それを超えているのである。つまり今はそれを誤りではないものの、不完全なものだと考えているのだ。私が棄却したのは、いわゆる「類催眠状態」に重きを置くことである。この「類催眠状態」とはトラウマにより患者に起き、その後に生じる心理的な異常事態の基礎となるものとされた。この共同作品[「ヒステリー研究」の第一章「暫定報告」をさす]が問題視される際には、この作品の所有権の分割を明らかにしておくべきであろう。「類催眠状態」については、多くの人がこの作品の中心部分と考えられているが、その全体が Breuer の主導権に発するものである。私はその様な用語は余計なものsuperfluous で誤解を招くもの misleading だと思う。なぜならそれはヒステリー症状の形成にまつわる心理的な過程の問題の継続性を遮断するからだ

I have gone beyond that theory, but I have not abandoned it; that is to say I do not today consider the theory incorrect but incomplete. All that I have abandoned is the emphasis laid upon the so called 'hypnotic state', which was supposed to be occasioned in the patient by the trauma, and to be the foundation for all the psychologically abnormal events which followed. If, where a piece of joint work is in question, it is legitimate to make a subsequent division of property, I should like to take this opportunity of stating that the hypothesis of ‘hypnoid states' -which many reviewers were inclined to regard as the central portion of our work sprang entirely from the initiative of Breuer. I regard the use of such a term are superfluous and misleading, because it interrupts the continuity of the problem as to the nature of the psychological process accompanying the formation of hysterical symptoms.

 雰囲気としてはこうだ。「こんな説を私が昔唱えていたなどと言われると大変不名誉で恥なことだ。何とかその誤解を払しょくしなければならない。」Freud は明らかに焦っている。解離に対する負の感情は Freud の中に渦巻いていたという印象を受ける。恨みにも近いものではないか?それにしてもどうしてか…・と私はつくづく不思議に思うのだ。フロイトの中のこの嫌悪感が、解離否認症候群と関連があるように思えるのである。