2021年5月16日日曜日

離隔 4 (ドーパミンシステムとの関連)

 ここで少し面白い記事を発見。1998年というかなり古い論文だが、このNIMHのBreier 先生のチームの研究によると、従来離隔やよそよそしさとドーパミンの関係が取りざたされていたという。こんな研究デザインだ。Karolinska Scales of Personalityというパーソナリティスケールがあるという。そのうちの一つがDetachment scoresで、離隔傾向を調べるというのだ。このスケールの得点と、その人が線条体でD2リセプターの濃度ととても顕著な相関関係が見いだされたという。これが示すことは次のような事だろう。D2の過剰刺激が統合失調症で生じているとしたら、いわゆる分裂気質的な傾向を持つ人にも同じようなことが言えないであろうか、と考えて実験をしてみたところ、同じようなことが言えた。だからこれは統合失調症のドーパミン仮説を裏付ける結果と考えていいだろう、と。しかしこの研究が最近あまり進んでいない印象だ。なぜなら「detachment, dopamine D2」 で検索してもあまりヒットしないからだ。でも2003年の論文を見つけた。これによるとこの見解をサポートする結果が得られた、とある。
Erik G Jönsson (2003) Association between a promoter dopamine D2 receptor gene variant and the personality trait detachment. Biol Psychiatry, 53:577-84.
2012年のある研究(Cervenka,S (2012) Changes in dopamine D2-receptor binding are associated to symptom reduction after psychotherapy in social anxiety disorder. Translational Psychiatry, 40)は、線条体以外の、例えば前頭葉や辺縁系など、社交不安障害に関連していると考えられている部位のドーパミンD2受容体を調べたところ、これが治療により症状が軽快するとともに低下してきたという結果を報告している。この論文でこんなことが書かれている。A role for the dopamine system in social behavior has been demonstrated in both animal research and human studies. Molecular imaging studies have shown negative correlations between striatal DA markers and the personality trait detachment as well as different measures of social conformity and low social status.
ドーパミンシステムと社会行動の関係は人間でも動物でも確かめられている。そして線条体のドーパミンマーカーと離隔やその他の社会との協調性のスコアの低さが研究されている。
という事で次のことくらいは書けそうである。

外向性(対内向性)という性格特性は、アイゼンクの提案以来性格特性の一つとしてとしてしばしば話題とされてきた。Detachment やその他の社会との協調性を示す行動は、線条体という部位のドーパミンD2受容体の濃度とネガティブな相関があることが知られている。この概念はビッグファイブの一つとして取り上げられ、それが不足している状態が離脱として概念化されている。他方ではその生物学的な基盤についての研究も進んでいる。そして線条体のドーパミンマーカーと離隔やその他の社会との協調性のスコアの低さが示されている。
Breier, et al (1998) Dopamine D2 Receptor Density and Personal Detachment in Healthy Subjects. American Journal of Psychiatry, 155: 1440-1442.
Jönsson, EG (2003) Association between a promoter dopamine D2 receptor gene variant and the personality trait detachment. Biol Psychiatry, 53:577-84.
Cervenka,S (2012) Changes in dopamine D2-receptor binding are associated to symptom reduction after psychotherapy in social anxiety disorder. Transl Psychiatry. 2012 May; 2(5): e120.