「顕著なパーソナリティ特性」離隔
「ハンドブック」編集部からは、「解離性健忘」だけでなく、この「離隔」という項目も依頼されている。こちらは2800字だが甘く見てはいけない。原稿用紙7枚をこのテーマで埋めなくてはならない。ちなみに離隔はそれ以外の項目(要素)つまりネガティブ情動、非社交性、脱抑制性、制縛性と一緒に、パーソナリティを構成することになる。
離隔の項目について各ソースはICD-11草案である。そこには以下の内容が記されている。
ここの原文は以下の通り。The core feature of the Detachment trait domain is the tendency to
maintain interpersonal distance (social detachment) and emotional distance
(emotional detachment). Common manifestations of Detachment, not all of which
may be present in a given individual at a given time, include: social
detachment (avoidance of social interactions, lack of friendships, and
avoidance of intimacy); and emotional detachment (reserve, aloofness, and
limited emotional expression and experience).
「対人的距離:対人的距離は、対人交流の回避、友人関係の欠如、親密さの回避が特徴である。離隔の特性が高い個人は対人交流を楽しまず、あらゆる対人接触および対入場面を可能な限り避ける。他者から話しかけられても「世間話に応じることはほとんどまたはまったくなく、他者とのやりとりを含まない職種を選び、昇進することで他者との交流がより求められるのであれば昇進自体さえも断る。友人はもちろん、付き合いの浅い知人すらもほとんどもしくはまったくいない。家族との交流は最小限または表面的となりがちである。交際関係をもつことがあるとしてもそれは稀で、性的な関係には特に関心がない。」
「情動的距離:情動的距離は、打ち解けない様子、よそよそしさ、および制限された情動表出および情動体験が特徴である。離隔の特性が高い個人は、義務として参加する対入場面でさえも、できる限り対人接触を避ける。典型的に彼らはよそよそしく、誰かに直接話しかけられてもほんの手短な反応しかせず、かつその反応はこれ以上話す気がないことを示すものである。また情動的距離は、言語的にも非言語的にも、情動表出の乏しさを含む。離隔の特性の高い個人は自身の感情について話さず、行動からどう感じているかを読み取るのが難しい。極端なケースでは、情動体験そのものが欠落しており、良い出来事にも悪い出来事にも反応がなく、何かを楽しむキャパシティが限定的である。」
もう一つの問題は、この離隔はおそらく最近問題になることの多い発達障害、自閉スペクトラム障害の問題がいやおうなしに絡んでくるということだ。この離隔を発達障害傾向に置き換えても、結構文章が成り立つのである。この離隔と発達障害傾向をどのように区別するのか。
あ、もう一つあった。5つの構成要素の中には非社交性がある。これと離隔とは本当に違うのだろうか?
これらの問題を根本的に論じる基本方針がある。そう、パーソナリティ理論、特にビッグファイブが生まれた背景を知ることだ。何しろこの理論により、パーソナリティはいくつかの構成要素を独立変数的に扱えるという方針が打ち出されたからだ。問題はそのような議論が生まれた時代には、まだ発達障害の問題はあまり議論になっていなかったということである。