CPTSDのエッセイ 6
この杉山先生の論文は、実はトラウマを扱う私たちの直面する問題にかなり直接的に訴えてくるテーマである。私たちは最近トラウマ性の精神障害という概念を手に入れるに至っている。しかしそれに対する治療がどの様なものになるかについては、奇妙なことに、CPTSDの様な「トラウマ関連疾患には『トラウマ治療』はしないほうがいい」という逆説がありうるという問題がある。もちろんこれは杉山先生一流のレトリックであり、事実彼自身が考案している「簡易型トラウマ処理」(TSプロトコール)と呼ばれるものである。いわばトラウマ関連疾患には、「正しいトラウマ治療」を行うべきだというロジックになる。そしてそこで肝要なのは、「フラッシュバックの蓋が開いてしまい収拾がつかなくなる」ことを避けることが必要という事だ。そのためには子供、成人を問わず、一日のスケジュール、睡眠、食事などの健康面に関するチェックを行い、その上で短時間でトラウマ処理を行う、という。ではトラウマ処理とはどういうものかと言えば、トラウマの記憶の想起をさせないで処理をするという。そのために左右交互刺激を呼吸法を行うという。その際はパルサーという身体に交互刺激を与える器具と呼吸法を用い、身体の違和感をモニターしていくという。
この後解説は多重人格状態についてのそれになるが、この杉山先生の手法はトラウマ記憶を直接は扱わないという点が特徴と言える。私は杉山先生には大いに敬意を払いつつ、「トラウマ記憶を扱う」場合についての論じる必要がある。なぜならトラウマ記憶は向こうから語られることも多いからだ。それを無視することはできないだろう。