本日の治療指針 解離性(転換性)障害
ニュートピック
解離性(転換性)障害に関する治療者の認知度は近年高まりつつあると共に、その国際的な診断基準にも最近変更がなされた。WHO(世界保健機構)によるICD-11
(2022年に最終案がまとめられる)の新たな分類によれば、従来の転換性障害は解離性神経症状症に呼称変更となり、伴い転換性や心因性などの表現は用いられなくなっている。またICDにおいては従来の転換性障害は解離性障害の中に組み込まれているが、DSM-5(2013年刊行)では両者を依然として別々に分類されている。とはいえ両診断基準の違いは狭まりつつある。
治療のポイント
解離性(転換性)障害においては統合失調症その他の精神障害や種々の身体疾患との鑑別診断が不可欠である。器質因の除外を慎重に行った上で正確な診断を下し、適切な治療につなげることが極めて重要である。本障害は基本的には精神的なストレスないしはトラウマ因が症状形成に大きく関係するが、時にはその存在が明らかでなかったり、小さなきっかけで過去のストレス因やトラウマ体験が症状化することがある。またトラウマ因をどのタイミングで扱うべきかという判断も含めた精神療法的なアプローチが治療の根幹部分をなす。さらに併存症への治療に留意することも重要である。本障害は時に破壊的、暴力的ないしは自傷的な人格部分のために精神科救急の対象となることがある。
病態
解離性(転換性)障害は個人が持つ心身の統合機能が一時的に失われ、記憶の欠損や幻聴、離人感等の精神症状や、器質因を伴わない身体症状やけいれん等の多彩な症状が生じうる。症状の発現にはしばしばストレス因が関与し、その始まりや終わりが比較的急であることが特徴である。また症状の性質から詐病や虚偽性障害を疑われることが多いのも本障害の一つの特徴と言える。
診断のための問診で特に重要なのが、記憶障害の存在である。過去の一時期の記憶が抜け落ちている場合は解離性障害が強く疑われる。DES(解離体験尺度)などは診断に有用である。症状の中には器質性疾患、身体疾患、薬物中毒、によるものに極めて類似するものが多いため、本障害の診断には器質性疾患の鑑別が不可欠であるが、時には両者が併存することもありうる。
治療方針
安全な環境の提供を優先しつつトラウマの処理に特化した精神療法的なアプローチが治療の根幹となる。解離性障害そのものに有効な薬物は知られていないが、一般に中枢神経の覚醒度を低下させる薬物や物質(ベンゾジアゼピン、アルコールなど)の使用により解離の閾値が低下することが多く、中枢神経刺激効果のある薬物はその逆の作用を起こす傾向にある。また併存症(不安障害、気分障害、物質依存など)が解離症状の悪化に繋がるためにその治療も不可欠となる。
文献
ハウエル,E(柴山雅俊ほか訳)心の解離構造―解離性同一性障害の理解と治療 金剛出版 2020年
柴山雅俊 解離の構造-私の変容と〈結び〉の治療論 岩崎学術出版社 2010年
岡野憲一郎 解離新時代―脳科学、愛着、精神分析との融合 岩崎学術出版社 2015年