難治例のアセスメント
はじめに ―――― 「重ね着」的なケースの理解
本稿のテーマは難治例のトラウマアセスメントである。トラウマの既往を持つ患者さん(以降「トラウマケース」という呼び方をさせていただく)の中には、長期にわたる治療でも症状が改善せず、社会適応を果たせない方々が少なからず見られる。これらの「難治例」のトラウマケースとどのようにかかわるかは臨床家にとって極めて難しい問題である。ただし本稿のテーマはアセスメントについてのものであり、治療方針に論を及ぼすことなく、いかにトラウマケースを見立て、理解するかについて主として論じることとする。
トラウマケースのアセスメントとしては、病歴や家族歴を網羅的かつ綿密に取り直すことの重要性については言うまでもない。本稿ではそれらがすでにおおむね得られたことを前提として、それらをいかに組み立て、診断的な理解に結び付けるべきかについて論じる。その際に特に論じたいのは、トラウマケースをいくつかの層に沿って「重ね着」的に評価することである。
私はここ数年この種のテーマについて論じる際に、この「重ね着」的な理解という表現を用いている1)。それはトラウマケースを理解するうえで、あれか、これかのカテゴリカルな診断を下すのではなく、そのケースが纏っている病理のいくつかの層についての理解を深めることで多元的に理解するという趣旨である。その意味ではこの方針は近年パーソナリティ障害の分野などで論じられることの多いディメンショナルモデルに近いと言えるかもしれない。
この「重ね着」という表現は、もともと衣笠隆幸先生(以下、敬称略)「重ね着症候群」という概念2)に発想を得ているが、私はその意図とはかなり違った用い方をしているという自覚もある。そこでこの難治例のアセスメントという本題に移る前に、この「重ね着症候群」という概念に言及しておきたい。
(以下略)