2020年7月7日火曜日

ICD-11における解離性障害の分類 書き直し 1


ICD-11の解離性障害の分類にはICD-10DSM-5のそれに比べていくつかの改変がみられるが、それは最近の研究や識者の考えの推移を反映したものといえる。以下がそのラインナップである。
6B60 解離性神経症状障害Dissociative neurological symptom disorder  
6B61 解離性健忘Dissociative amnesia 
6B62 トランス障害Trance disorder  
6B63 憑依トランス障害Possession trance disorder
6B64 解離性同一性障害Dissociative identity disorder  
6B65 部分的解離性同一性障害Partial dissociative identity disorder  
6B66 離人感・現実感喪失障害Depersonalization-derealization disorder  
6E65 二次的解離症候群Secondary dissociative syndrome 
6B6Y ほかの特定される解離性障害Other specified dissociative disorders  
6B6Z 特定されない解離性障害Dissociative disorders, unspecified  

以下にICD-11における解離性障害の分類のいくつかの特徴を挙げよう。
●従来転換性障害と言われたものについて、転換conversion という表現が用いられず、解離性神経症状症 dissociative neurological symptom disorderという障害が採用されている。これは、ICD-10の「運動と感覚の解離性障害 dissociative disorders of movement and sensation」という表現をより記述的な形で継承していることになる。すでにDSM-5でも変換症/転換性障害(機能性神経症状障害 functional neurological symptom disorder)という表現が採用されているが、それと歩調を合わせた形になっている。そしてそれは12のサブタイプからなる。それらは神経症状のうち何が主たるかにより分かれているが、それがかなり網羅的である。それらは発作またはけいれん、脱力または麻痺、感覚変容、歩行症状、他の運動症状、認知症状、意識変容、視覚症状、嚥下症状、聴覚症状、めまい、発話症状、である。
●解離性遁走が独立した障害ではなく、解離性健忘のもとに分類された。これもDSM-5と同じ方針である。
ICD-10では「憑依・トランス障害」とされたものを、「トランス障害」と「憑依・トランス障害」とに分けた。後者は外的な憑依的アイデンティティ(霊魂spirit、威力power、神的存在deity、そのほか)が支配するという点が前者より際立つために設けられた。ちなみにDSM-5では憑依体験は解離性同一性障害において取りうるものとされている。また「他の特定される解離症」に示された例の一つの「解離性トランス」として登場する。
ICD-10において見られた「多重人格障害」という診断名は、DSMに合わせて「解離性同一性障害」というより現代的な呼び名に代わっている。また解離性同一性障害はICD10では『特定されない解離性障害 unspecified dissociative disorders』の一つとして数え上げられていただけであったが、一つの独立した障害に格上げされたことになる。
ICD-11では新たに「部分的解離性同一性障害」が掲げられた。この障害においては、が支配的な人格の意識や機能に対して、一つの人格部分としてのまとまりを欠く被支配的な人格部分(いわば「中途半端な人格」)侵入を行うケースである。
ICD-10においては「F48.その他の神経症性障害」に分類されていた「離人・現実感喪失症候群」が新たに解離性障害の中に組み込まれた。