2020年7月31日金曜日

ミラーニューロンと解離 6

ここでさらに具体的に、母親と幼児とのかかわりあいを考えよう。母親に微笑みかけられた幼児は、それを一つの受動的な体験として持つ。その時幼児は微笑みかけるという能動態にある母親の間接体験を、MNS を介して持つ。しかし同時に微笑みかけられるという受動態の直接体験を持つ。後者はのちに述べるように、それに伴う知覚体験や感情体験が重要な位置を占めるだろう。こうして微笑みかけられるという体験は、二者性を有する。つまり微笑みかけている人間の心を同時に体験しているのだ。(それとは別に、モデルがこちらに微笑みかける写真を見たり、そのような録画を見た際は、自分が微笑みかけられているという体験を持たないであろうし、そこで微笑みかけてくる相手のMNSを介した間接体験はゼロか、極めて希薄になるはずだ。)

さてこの微笑みかけられた体験はMNSを介して模倣され、幼児は結果的に母親を微笑み返すであろう。こうして母子は相互に微笑み合うという行動を取るであろうが、それは両者の基本的な情緒的やり取りとして促進されることになる。そしてそこでは受動態での体験の際の知覚、情緒的な体験が重要な意味を持ち、それが繰り返される背景には報酬系の後押しがあると考えられる。

母親から微笑みかけられると、それはおそらく優しいトーンの声、撫でられる感覚、温かさなどのマルチモーダルな快感を伴った諸体験とセットになって子供に体験されるだろう。そして幼児がそれを模倣して微笑み返す際、それを受け取った母親の示す反応もほぼ同時にMNSを介して体験されることになる。それは自分が微笑みかけられたときに体験した快感と同類のものを母親に及ぼしているという感覚を伴うであろう。このように母子間の微笑み合うというやり取りは、そこに快感というマルチモーダルな快感を伴うことで促進されるはずだ。

この交互の微笑みは、幼児の自己感、能動感、対象イメージの取入れなどの対人交流をはぐくむうえで基本的な要素をすべて含んでいるといえる。そしてそこでは無論MNSの賦活が重要な役割を占めるだろう。自分の行動が相手にどのような体験のされ方をしたのかは、MNS介して直接的、自動的に相互に伝えられるのである。