2020年5月2日土曜日

トラウマ難治例 4


4.気分障害の層

トラウマケースの難治例にしばしば見られるのが、気分障害との合併である。フラッシュバックや解離症状そのもの以外にも、気持ちが落ち込み意欲が持てず、半ば引きこもり状態になることにより社会機能が低下するケースも多い。しかし合併症としての鬱状態が診断的な理解から漏れていることは少なくない。
 トラウマ関連障害の中でも、PTSDのおよそ半分がうつ病を伴っているとされる(Breslau,1997, Kessler,1995)が、それによりどのように治療や予後に差が生じるのかという問題についてはいくつかの論文がある。PTSDがうつ症状を伴う場合、それがうつ病との合併状態なのか、それともPTSDのサブタイプとして捉えるべきかについては結論は出ていないという。しかしいずれにせよ、両者が共存した際の予後はどちらか一方より悪いというデータがあり、その際一つの決め手となるのが、患者が持っている内在化internalizingの傾向であるとされるる(Flory,2015)
 Floryらは内在化を高い陰性情動(神経症傾向)と低い陽性情動により、外在化は高い陰性情動と低い衝動性により特徴づけられるとしたうえで、PTSDは内在化傾向が強いタイプと外在化傾向が強いタイプに分かれる数少ない精神障害だという(Wolf, 2010)。そして特に内在化タイプにPTSDとうつ病との合併が多いとする。他方では外在化タイプは薬物依存と大きく関係するといわれる。そしてさらにはこの内在化タイプの性格傾向は、将来PTSDとうつ病の合併状態を発展させやすい病前性格となっているという(Flory,2015, p145)。そしてPTSDMDDのケースには、性的、身体的虐待が多く、PTSDのみのケースにはネグレクトと心理的外傷と結びついているという(Hovens, 2012)。
これらの一連の研究が示唆するところは大きい。トラウマケースの難治例としてうつ病の共存が挙げられ、それがおそらくはケースの持っている内在化傾向という性格傾向に深く関与し、またそのようなケースが性的、身体的虐待を伴うという所見は、これだけでも難治例の重ね着的なあり方をそのまま言い表しているといってもいいだろう。なぜならこれらの所見はトラウマの層、パーソナリティの層、気分障害の層を同時に含んでいるからである。
Breslau N, Davis GC, Peterson EL, Schultz L. Psychiatric sequelae of posttraumatic stress disorder in women. Arch Gen Psychiatry. 1997;54(1):81- 87.
Kessler RC, Sonnega A, Bromet E, Hughes M, Nelson CB. Posttraumatic stress disorder in the National Comorbidity Survey. Arch Gen Psychiatry. 1995;52(12):1048-1060.
Flory, JD, Yehuda, R (2015) Comorbidity between post-traumatic stress disorder and major depressive disorder: alternative explanations and treatment considerations, Dialogues Clin Neurosci. 2015 Jun; 17(2): 141–150.
Wolf EJ, Miller MW, Krueger RF, Lyons MJ, Tsuang MT, Koenen KC. Posttraumatic stress disorder and the genetic structure of comorbidity. J Abn Psychol. 2010;119(2):320-330.
Hovens JG, Giltay EJ, Wiersma JE, Spinhoven P, Penninx BW, Zitman FG. Impact of childhood life events and trauma on the course of depressive and anxiety disorders. Acta Psychiatrica Scandinavica. 2012;126(3):198-207.