神経細胞という単位ごとに、そこで発生する電気的活動の持つ揺らぎという問題について論じた。しかし脳の活動全体を考えると、一つ一つの神経細胞の揺らぎは極めてローカルな出来事といえよう。私が何度か用いた地震の比喩を取り上げるならば、脳の活動全体が中等度の地震のサイズだとすると、神経細胞の電気活動は、それこそ砂粒の動きにたとえられるだろう。ただしこの砂粒は、常にモゾモゾ動いているということになる。そして巨大な岩盤の揺らぎである地震が実は砂粒の動きと連動しているのと同じように、脳の活動も個々の神経細胞の活動に帰着することができる。ただそのスケールがあまりに違いすぎるので、神経細胞の揺らぎから心の揺らぎを論じることにはあまりにも大きな話の飛躍があると感じられるだろう。
心の揺らぎについては第3章で論じるとして、ここでは神経細胞の揺らぎに話をとどめておきたいが、次のレベルとして私が挙げるのが、大脳皮質のマイクロカラム、カラム、という単位である。
神経細胞 → マイクロカラム(円柱) → カラム(機能円柱) → ~野(運動野、など) → ~葉(前頭葉、など)
大脳皮質は厚さ2.5ミリほどであり、それが6層の構造からなる。このコラムは大脳皮質のいたるところで見られる。感覚をつかさどる一次体性感覚野や、運動をつかさどる一次運動野などでもそうだ。直径0.5mmほどのコラムには 約10万個もの神経細胞があるが、その詳細な構造や機能はまだよく分かっていないという。
その構造をもう少し細かくみると、マイクロカラム (minicolumnミニ円柱)とよび、25〜40μmほどの大きさであるという。人間の大脳には200億個のニューロン、2億個のマイクロカラムがあるというから、その数は途方もない。
1つのマイクロカラムは約100個ほどの神経細胞により構成される。これは脳の機能の基本的な単位であり、それらを構成する神経細胞は同期化しつつ、一つの仕事をこなしていることになる。神経細胞たちが集まった一つの班、と考えていいだろう。
このマイクロカラムがさらに100個ほど集まったものがカラムと呼ばれるものだ。つまりカラムは、神経細胞の10000個ほどの塊で、太さは600~800μmである。地震の比喩では小石くらいの大きさの塊と考えることができる。