では株価は予想が出来ない、という根拠を示せば、それが揺らぎの性質を有するということの少なくとも傍証にはなるだろうが、株価が原則的には予想不可能であることは、簡単な思考実験から示すことができる。地面の揺らぎを考えるのと違い、ちなみに大この思考実験には人の意志が絡んでくる分、より頭に思い描きやすいかもしれない。
例えば複数人の投資家(A,B,C,D,E,F・・・・)がいるとしよう。彼らがある品物、たとえば風景画の取引をする。一種の競売のようなことを行われる場面を想像してほしい。ただしこの競売は架空のものであり、そこでの値段は上がることも下がることもあり、永遠に続くものと仮定しよう。あくまでも空想上のものだ。
最初はその絵画にはX万円という値段が付いている。さっそく投資家AさんがX+1万円で買う。するとBさんは「私はそれを+2万円で買う」と言い出す。Aさんは心の中で「しめた!」と思うかもしれない。ここですぐBさんに売れば1万円の利益が出る。でもここで簡単にこの絵画を売るのを躊躇するかもしれない。というのもCさんが「じゃ、私はそれをX+3万円で買う」と言い出すかもしれないからだ。そうなるとそれを売ったBさんの方が2万円の儲けになる。Bさんが自分より儲けるのを、Aさんは指をくわえてみているわけには行かない。だからAさんはその絵を売らないで持っていることにする。
このように競売はまだ始まったばかりだが、そこにいる数人の投資家の頭はめまぐるしく動いている。上に書いたのはAさんの心の描写だけだが、彼らはそれぞれその絵の値段がどのように推移するかを一生懸命予想しようとするのだ。そしてCさんは実際には「この絵は素晴らしいから、きっとこのまま値段が上がっていくだろう」と予想したとする。Cさんは自分の第六感を信じることにする。そしてどうしてもその絵画を手に入れたいと思ったとしよう。そして「X+4万円、いや+5万円!」と買い値を釣り上げていく。
この場合Cさんはある危険な賭けをしていることになる。たとえばCさんがX+20万円で最終的に絵画を手に入れたと仮定する。このCさんにはどのような運命が待っているだろうか? 最悪の場合を考える。突然Cさん以外の投資家がそっぽを向いてしまうのだ。皆はこう言うかもしれない。「でもよく見たらこの絵、安っぽくないか? X万円でさえ高いくらいに思えてきたぞ。」「X+10万円くらいが相場じゃないだろうか? X+20万なんてやはりどう考えても高すぎるぞ。」こうしてCさんはだれも見向きもしないX+20万円の絵画を抱えて途方に暮れるのだ。Cさんの「この絵は値上がりする」という予想自体はもし正しかったとしても、最初のX万円という値段が高すぎるのか、低すぎるのか、ということについてさえ、誰も正確な答えを知らないのである。