「歴史はべき乗側で動く」
このべき乗則を本格的に理解するために恰好の本がある。「歴史は『べき乗則』でうごく」というのがあるが、英語の現代は “Ubiquitous” (遍在)である。つまりどこにも見られるというわけだ。自然のどこにもかしこにも見える冪法則。世界に偏在していて、それがようやくここ数十年で理解されるようになって来たのは不思議なことだ。
ではもう少し自然界を大きくとらえて、例えば宇宙の天体を考えよう。この天体の大きさにももちろん冪乗則が成り立つ。それを示してみよう。
ここであなたに特別な能力が備わる。ある研究室であなたはこの全宇宙に存在するあらゆる天体を一列に並べて1,2,3・・・と番号を振ってみる。その平均値を取ろうというわけだ。その研究所の広さは無限で、どのようなサイズの天体も持ち込むことが出来る。あなたも永遠の生命を与えられているとしよう。あなたは番号順に順番に一つ一つ登場してもらう。そしてノートに大きさの記録をつけていく。それは手間も時間もかかるだろう。でもあなたには無限の時間が与えられているのだ。
あなたは最初は1番の天体が来る前に、いったいどのような計測装置が必要かわからなかったが、登場する天体がみな余りに小さく、目に見えないくらいなので、主として顕微鏡が必要になることがわかるだろう。なにしろ「天体」の大多数は、目に見えないほどの宇宙のちりだ。そして気が付くだろう。そう、一番小さいレベルの天体は、いわゆる「宇宙塵」と呼ばれるものであり、その大きさは、0.01マイクロメートルから10マイクロメートル程度であることを。そして土星のリングなどに含まれる塵などが数としては圧倒的に多く、それらの行列が延々と続くことになる。仕事の合間にあなたはグラフをつけることを思いつく。横軸に天体の番号、縦軸にその大きさ。するとそれはジグザグを、あるいは揺らぎを記録するはずだ。何の変哲もない揺らぎ。塵の大きさによって上下はするが、特に特徴もない揺らぎが記録されていくだろう。フーン、天体の大きさと言っても、こんなものか、とあなたは楽観視するようになる。計測する機器はいつもの顕微鏡で済む。そのうち目に見える長さの天体を計測する定規類なども使われずにほこりをかぶってしまった。
ところが単調な計測の仕事を延々と続けていると、時々ちょっと大き目の、ひょっとしたら肉眼でもはっきり見えるような砂粒大の「天体」も登場するだろう。たまにはこんな大きさのものが来るのだ、でも大したことがない、とあなたは高を括る。そう、数か月に一度くらいだ。その間は延々と、顕微鏡でしか見えないような塵との格闘である。
そしてさらに延々と仕事を続けていくと、それはものすごくまれに、おそらく数百年に一度の頻度で、米粒大の天体が現れて、あなたをびっくりさせる。顕微鏡に乗せなくても、定規ではかれる大きさだ。