...... 言葉によるやり取りを考えるうえで一つ重要なことは、通常は私たちは言葉を様々な用途で用い、それは一つのことを伝達すると同時に、別のことも同時に伝えるということだ。そしてそれは実はきわめて込み入ったプロセスでもある。Bさんの「今度の日曜日は予定があります」は、ほかのいくつかメッセージを可能性として含みうる。それは「別の日曜日なら都合がつく」でもありうる。「今度の月曜日(火曜日、水曜日・・・・)なら予定はないわよ」かも知れない。しかしそれ以外にも「実際に次の日曜日には別の予定が入っているから映画には行けない」や「あなたとのデートはお断りです。」かもしれない。「それでもあきらめずに私の誘うつもり?」でもありうるし、「ごめんなさい、貴方のことがまだわからないので、いったんはお断りわせてください。本当は少し興味があるの。もう一度誘われれば考えるわ。」の可能性も否定できない。「本当は行きたいけれど、貴方にこれ以上惹かれてしまうのが怖いの」かも知れない。「男性からの誘いはどれも断れ、と父から言われているの。ごめんなさい。」も可能性としてはゼロではない。
これらの可能性はいずれも否定はできないし、デートの誘いを断られた側は、ある程度理性を失っていて、より好意的な解釈に飛びつくかもしれない。ちなみにあるストーカー体質の人は、繰り返し断られたデートの誘いに対して、怒りを爆発させたという。「どうして君は、僕への好意に正直に向き合わないんだ!」
このように考えると私たちは、結局は言葉が持つ意味の揺らぎの中で、そのどれとも決めつけることをせず、しかしある程度は的確に読み取る能力を持っているおかげで、社会生活が成り立っているということが分かるだろう。「今度の日曜は予定がある」という返事を受け取った時点では確かに、そのメールは「その次の日曜なら大丈夫です」という意味も持っている可能性はあった。あるいは「ごめんなさい、貴方のことがまだわからないので、いったんはお断りわせてください。でも本当は少し興味があるの・・・・・。」という可能性も少しは残っているかもしれない。しかしそのような返事を受け取ったA君のような立場にある他の多くの男性は、たいていは、二つの可能性の間に立たされたという感じを持ち、揺らぎを体験し、持ちこたえようとするだろう。一つの可能性は相手に断られた、フラれたという可能性であり、これが心に占める割合をおよそ80パーセントくらい、としておこう。そしてそれとは別に、もう一つの肯定的な可能性、つまり「別の日なら大丈夫よ」という意味が込められている、という可能性に一縷の望みを繋ぐことになる。こちらは20パーセントとしておこう。......