2019年10月9日水曜日

べき乗則が支配する 推敲 1


冪乗則が支配する-ユビキタス、あるいは「冪(べき)乗則」の世界と揺らぎ
揺らぎとは実に不思議な現象だが、その背景の一つとしてとても大切な仕掛けがある。それが「べき乗測」と呼ばれるものだ。英語では power law(力の法則)。なんとシンプルな名前だろう。しかしこの持つ意味は深淵だ。この世はべき乗則が支配しているといってもいいが、それが揺らぎの本質につながっていると考えるしかない。そこでしばらくはこの不思議な冪乗則、あるいは冪(べき)乗則の話になる。冪、と言いうのは不思議な感じだが、要するに10の何乗、という時の「乗」に相当する、同じ数字を何度も掛け合わせるという意味である。ある値が1,2,3,4と自然数で進行すると、それに対応する値がたとえば2×2、2×2×2、2×2×2×2・・・・という風にとんでもないスピードでどんどん進行していく、という意味である。ネズミ算式に増えていく、というあのニュアンスである。
揺らぎとべき乗則の関係を説明しよう。揺らぎの基本的な例として、地面の動きを考えよう。極めて繊細な地震計を設置してその動きを観察する。すると地面はほとんど常に揺れ動いていることがわかる。以前は地震と言えば人が体感するものを指していたが、最近は「震度ゼロ」の地震、すなわち地震計にのみ感知され、体験はされない自身も含めている。そして分かったことは結局は微震も含めた地震は常に起きており、私たちが体験したり、災害を引き起こしたりする地震は、そのうちの例外的に大きいものなのだ、ということになる。「揺らぎ」という言葉を用いるならば、大地は常に揺らいでいるのであり、私たちが呼ぶ地震はそのうちの特に大きな揺らぎだということになる。ではいつ大きな揺らぎが起き、それがどの程度予測可能かということについては、実はよくわかっていないのだ。そしてここが最大のポイントなのである。
こんな風に書くと、地震における「揺らぎ」とは予測不可能ででたらめな動きを示すのだ、という印象を与えるだろう。でも揺らぎは決してでたらめ、無意味、ランダムというわけではない。実はこの地震について、驚くべき事実がわかっているのだ。そしてそれがこの「べき乗則」ということと関係している。例えば皆さんにはこんなことが理解できるだろうか?
1.地震の大きさに「典型的なもの」ないし「平均の大きさ」はない。(あえて平均すると限りなくゼロになってしまう)
2.地震の大きさとその頻度は、それらを対数で表すと直線状に並ぶ。
つまり地震の大きさは実はでたらめではなく、極めて整然とした秩序とともに起きているということなのだ。
 この1の「平均的な大きさがない」という事実はおそらくほとんどの人にとって理解に苦しむものではないだろうか。そしてここがランダムとの違いである。例えばサイコロをでたらめに振って出てくる数値を平均することはたやすい。1234566で割って、21/6 = 3.5 というわけだ。
実はこのうち2の方は、いわゆる「グーテンベルグ・リヒター則Gutenberg–Richter law」、つまり地震の発生頻度と規模の関係を表す法則である。片対数グラフで表すと直線関係になるという関係があり、この世界では有名な発見であった。
この2の問題の意味を突き詰めると1もおのずと理解される。このグーテンベルグ・リヒター則を厳密に当てはめると、地震の規模が小さくなると、その頻度は膨大になっていく。つまりは「地震」の数で言えば、微震の頻度は膨大になり、逆に巨大な地震は極端に少なくなる。だから平均すると圧倒的に微震の方が数で勝ってしまい、結果として地震の大きさの平均は限りなくゼロに近くなるというわけだ。