2019年9月13日金曜日

日本における母子関係 2

  ここで愛着についての少し学問的な話だ。これがないとアカデミックな論考にならない。日本人の母子は結局一緒にいることでどのような違いが生まれるのだろうか。その参考となるのがストレンジ・シチュエーション・プロシージャ―である(長いので今後は SSPと表記)。例のエインスワースが考案して一大センセーションを引き起こしたこの実験(と呼んでおこう)では、ある部屋に母親が子供と一緒に入り、次に見知らぬ他人が入って来て、母親は子供をおいて出て行き、それに対する幼児の反応を見、次に母親が戻ってきて、それに対する子供の反応を見る、という一連の出来事からなる。エインスワースは子供の反応について、それをA型 「不安定(回避)型」、B型 「安定型」、C型 「不安定(両価)型」に分類したのである。このA,B,Cの分類とは、
A.
 回避型 母親に無関心。母親が出て行っても戻ってきてもあまり関心を示さないというパターン。
B.
 安定型 どうして行っちゃったの! と抗議するが、すぐ落ち着く。
C.
 アンビバレント型 お母さんが部屋に戻ってきたときに抵抗を示す。身体接触は求めるが同時に抵抗も示す。たとえば抱き上げようとすると泣き、おろそうとすると怒ってしがみつく。お母さんが部屋から戻って来るとお母さんを求めて泣きだすが、お母さんのもとへ近寄ろうとしない。お母さんが近付くと、抵抗を示す。その後、メインとソロモンが上記3つに当てはまらない愛着のタイプを発見し、型 「無秩序型(無方向型)」を追加した。このA,B,Cの並べ方は少し混乱するかもしれない。は「安定型」なら、最初のに指定すればいいだろう。しかしアインスワースからすれば、一番反応を示さない(つまり手がかからない???)回避型をに持ってきたというわけか?ともかく彼女自身の研究による各タイプの比率構成は、A タイプが 21%、B タイプが 67%、C タ イプが 12%というものであった。ちなみに、この比率は、その後、世界 8 カ国で行われた 39 の研究、約 2000 人の乳児のデータを総括して得られた、各タイプの比率とほとんど変わらないものである(van IJzendoorn & Kroonenberg,1988)。だったらなおさら に安定型を持ってくればいいのに(比率も一番高いから)と思うのだが、まあそれはともかく。
 さて問題になったのは、社会文化による違いが存在しないという訳ではなく、例えば、ドイツではタイプの比率が、またイスラエルのキブツや日本ではタイプの比率が相対的に高いということが知られている。この日本での研究についてであるが、1980年代に行った三宅、高橋先生は、日本のサンプルでは、型がなんとゼロで、C型が30 パーセントであると報告した。彼らが言うには、日本の母子はいつも一緒にいるので、SSP という設定自体に驚いてしまう、というのだ。 だから型が多いからと言って、不安定な愛着が起きているとは言えない、と説いた。この背景に、社会文化間に存在する子どもやその養育に対する基本的考え方(Harwood et al.,1995)および実際の家族形態や養育システム(van IJzendoorn & Sagi,1999)の差異などが関 与している可能性は否定できないという。ところで私にはこのC型は子供がパニックになり、母親に対してすごくアンビバレントになっている状態と思える。だから結局三宅先生の考えに賛成なのである。ちなみに面白いのは日本ではAがゼロ、という点だ。私には は母親においておかれる体験にすごくなれた子供であると同時に、アスペルガーの子にも見える。という事はどの社会にも一定数存在するはずなのに、日本だけゼロって本当だろうか。まあ一つ言えるのは、見知らぬ人と一緒の部屋から母親が出ていくという事態そのものが、日本では考えられないので、それに無関心の子供はゼロであった、という事だろうか。
 さてこの件、それからもう30年以上たっているが、どうなっているのだろうか
?