2019年8月15日木曜日

万物は揺らいでいる 2


揺らぎはおそらくシステムの統合に寄与している

昨日私が書いたのは、なぜ分子がこれほどまでに揺らぐのか、という事だがここに一つの仮説を設けることが出来る。それは揺らぎのおかげで私たち生命はシステムとして成立しているという事だ。システムと一言で言ってもあまり意味が通じないが、要するに情報システムという事だ。その中で情報の交換ができ、新しい組み合わせが生じるようなシステム。中枢神経系はその最たるものだ。人間の場合1000億の神経細胞が存在し、その一つ一つが、他の数千~数万の神経細胞とのつながりを持っている。脳は巨大な網目状の構造をしていて、そこを様々な情報が行きかう。ところがミクロのレベルでは、おそらく揺らぎのおかげでそのような網の目のようなシステムを必要としていない。それは分子レベルでの揺らぎがそれを代行してくれるからだ。私たちがアレルギーの薬を飲むとき、一つ一つの分子がヒスタミンのリセプターにうまく出あうことを祈るだろうか。その両者はほぼ確実に出会うし、分子とリセプターが神経線維のような連絡網によって結ばれている必要はない。体内に入った薬は、血液の流れに乗って体の隅々に送られた後は、自分自身の揺らぎでリセプターに到達するのである。

分子の発見につながったのも揺らぎだった
ところで物質が基本的な要素によって成立しているという事を発見したのは誰だろうか? 科学史に多少なりとも詳しい人ならご存知と思うが、それはかのアインシュタインである。アインシュタインが特殊及び一般相対性理論の発見者であることは常識であろう。しかし彼がノーベル賞を受賞したのは、いわゆる光電効果についてのもので、要するに光がある種の粒子としての振る舞いをすることを発見したことに与えられたものである。しかしもっと知られていないのは、水の分子の存在を実証して見せたという事である。
ロバート・ブラウンは植物学者だったが、1920年の頃、水に浮かべた花粉が顕微鏡下では細かく振動していることを発見した。それは水に落とした墨汁の細かい粒についてもいえた。ブラウン運動の発見である。しかしブラウン自身にも、当時の学者にもそれが何を意味するかは分からなかった。そう、人は理由のわからないことは無視するのである。しかしそれについてアインシュタインが出したのは驚くべき理論だった。それは水の分子が花粉やインクの粒に周囲からぶつかっているからというものだった。しかしどうしてアインシュタインはこの発想に至ったのだろうか。それはおそらく彼が物質の本質としての揺らぎを捉えていたからであろう。だってそうではないか。彼が水の分子が静かに漂っていると想像していたなら、小刻みに揺れる花粉や炭素の粒を見て、「ほら、水分子のせいだ!」などと思いついただろうか。