2019年7月23日火曜日

冪乗則と揺らぎ 5

これで少しは落ち着いて考えられそうだ。なぜ物事に冪乗則が成り立つかを克明に追うことができる。そこで改めて考えよう。上から雪のように、分子がランダムに地面に降ってくる。地面に落ちた分子はほとんどそのままだろうが、中には降ってきた次の分子をくっつけて枝を伸ばしていく。さてここに冪乗則が成立するということはどういうことだろうか。例えば二倍の大きさに成長する確率はX分の一。このXに入る数字はおそらく状況により異なるのだろう。ここで大切なのは、小さい枝は小さいなりに、大きい枝は大きい枝なりに成長していくことだ。そしてその成長の仕方はスケールフリーということになる。どの大きさの枝に自分がなりきっても、大きく成り方のペースは同じに感じられるだろう。その成長の仕方は、どんなにズームインしても、ズームアウトをしても同じ。そういうことだ。なぜそうなるのか。自分が大きい枝なら、それだけ表面積が大きいから、より多くの分子がぶつかってきて、それをくっつけることができる。つまり最初にあった格差、不平等がより大きくなっていく。Rich gets richer というわけだ。ではその不平等の起源は何か。最初には最小単位の枝、つまり一粒の分子がバラバラに転がっているというところから出発する。最初の差は次の分子をいかにくっつけることができるかだ。そしてそれは完全に偶発的なことだろう。
思考実験を簡単にするために、地面には一面に一つの分子が敷き詰められているとする。分子が降ってくる確率をPとしよう。そして最初の一定の時間に格差が生まれるということにしよう。すると一つゲットする確率はP分の一、二つはP二乗分の一、3つはPの三乗分の一。これで最初の枝の大きさの格差が生まれた。何とか冪乗則に従っているようだ。そしてあとはそれぞれの枝が、同じことを繰り返すことになる。つまりそれぞれの枝でまた同じことが起きる。そしてその枝の中でもその小枝で冪乗則が成り立っていく…。まあいいか、これで分かったことにしよう。
結局何が知りたかったのか。それは冪乗則がどのような意味で人間の活動にも当てはまるかが知りたかったのだ。Bourke 氏のサイトでは、この法則が当てはまる例として、珊瑚の成長、稲妻の長さ、塵や煙の集積、ある種の結晶の成長などをあげているが、居酒屋を出て酔っ払いが歩く距離も例に出している。ほとんどの人が23歩で倒れるが、一部の人は10メートル歩き、さらにまれに100メートル歩く人がいる、等の例だ。半分冗談かもしれないが、これが人の資産とか、本やCDの売れ行きにも当てはまる。ということは一円ごとの富の集積、一冊ごとの本の売れ行きなどが、この分子の動きと同等ということになる。例えばたった一冊しか売れなかった本より、2冊売れた方が、それを目にしたほかの人が買うという可能性が高くなる、という風にして冪乗則が成り立つ。あるいはお金を1000円持っている人より、2000円持っている人の方が、より仕事を得てそれ以上にお金を稼ぐことができる、ということだろう。なぜだろうか?それはよくわからないが、そこにある種の偶発性が深く絡んでいることはわかる。世界中で一人しか持っていない本よりも、二冊持っている本の方が、たまたま人の目に触れて買ってもらえる確率が高くなる。それは本が面白いから、というのとはかなり異なった力学が働いている。
しかしここで私は思うのだ。作られたときにすでにヒット間違いなし、という曲はないだろうか?ビートルズの「イエスタデイ」は、ポール・マッカートニーが朝起きて夢に出てきたそのメロディーを口ずさんだ時に、すでにビリオンセラーになる運命にあったのではないか。それは偶発性だけだろうか?うーん、ナゾは続く。