2019年7月28日日曜日

人の行動と臨界状況 4

パラノイアの延長としての戦争

 さてパラノイアの帰結としての最大級のものは何か、ということに関しては、先ほどは 30人が巻き込まれた最近の火災を例に挙げたが、さらに上の段階の出来事が幾らでも考えられる。そのひとつは戦争である。そしてこの問題についても見事な議論を行っているのが、すでに述べたアルハート・ラズロ=バラバシの「バースト! 人間行動を支配するパターン」(青木薫訳、NHK出版、2012年)である。この不思議な本では、現代社会において人間が起こす行動の複雑さ、乱雑さがいかに冪乗則にしたがったものかという話の一方では、16世紀にハンガリーで起こった十字軍の反乱事件が交互に、刻一刻と描かれている。実際に起きた歴史的事件がいかにさまざまな偶然により衝き動かされていったかについて、いくつもの実例があげられているわけだ。
 その本の第11章は、「死にいたる争いと冪法則」と題して、ルイス・フライ・リチャードソンという学者が、戦争がどのようにして起きるかについての法則を探し求めた話がある。いろいろな仮説があげられたそうだ。「経済力に大きな差がある国同士の方が交戦する可能性が大きい」「共通の言語を持つ集団同士の方が争いになりにくい」「軍拡競争はいずれ交戦が起こることの前ぶれである」などなどであったが、結局データを見る限り、戦争を引き起こすのは、全く偶発的な現象であることが分かったという。そしてそこにはまさしく冪乗則が見つけられたのだ。そしてその中の最大級の、数千万の命を奪った、しかし数にしてわずか二つの戦争(いうまでもなく第一次、第二次世界大戦)を筆頭に、少し規模の小さい6つの戦争が続き、そのあとは延々と小規模の戦争が続いていく、というわけである。 それにしても最大級の戦争の下には、最大級の揺らぎが生じていたことを想像するのは空恐ろしいことだ。皆さんもおそらくご存知のキューバ危機。196210月から11月にかけてキューバに核ミサイル基地の建設が明らかになったことからアメリカ合衆国がカリブ海で海上封鎖を実施し、アメリカソビエト連邦とが対立して緊張が高まり、全面核戦争寸前まで達した危機的な状況のことである(Wiki)。最終的には当時のアメリカ大統領ケネディとソ連の首相フルシチョフの間でのやり取りがあり、一触即発の危機が解除されたというが、結局そちらの方に揺らいだからこそ戦争は起きなかった。しかしもし間違った方に揺らいでいたら・・・・。真珠湾のようなことになっていたのだろうか。本当は巧妙な駆け引きがそこで行われていたという説を信じたい人もいるだろう。しかし私はそれをあまり信じない。Buchanan ”Ubiquity” の冒頭には、第一次大戦が1914628日の午前11時に、ある車の運転手が犯したちょっとした間違いが第一次大戦の勃発につながった様子が描かれている。私はこちらの方を信じるし、それは次に述べる「失敗」の法則にもつながる。失敗もまた、人間の冪乗則にしたがう行動の一つの典型である。