2019年5月15日水曜日

カオス ①


 カオス

 私も専門ではないのでわからないが、カオスの定義としては、決して定常状態にならない、と考えるといいであろう。私はそうやって納得した。定常状態とは、一定の動きが何度も繰り返される状態、といってもいい。
 たとえば次の数字を見て欲しい。
0.142649384039342・・・・。この数字の動きはカオス的だろうか? このままではわからない。ところが0.1426493840393438403934・・・だったらどうだろう。384039342度繰り返されている。するとこれが以降は循環するかもしれない。もしそうならばカオス的ではない。たとえば小数点以下100万桁の数字を言い当てることが出来るからだ。ただしこの38403934の数列がこれ以降永遠に繰り返されると仮定した場合だが。
 しかしこのカオスの問題がなぜこれほど人々の注目を集めているかが不明という人は多いのではないだろうか。カオス、というと「混沌」という意味があり、要するにデタラメという事を意味することが多いが、数学的な意味でのカオスは結構質の高い「デタラメ」なのである。つまり本当にデタラメで規則性がないことがお墨付きの「デタラメ」なのだ。
カオスという問題、ないしは現象は19世紀後半の数学者・ポアンカレが最初に注目したとされる。彼はいわゆる「三体問題」について考える中でこれを発見した。三体問題、あるいは多体問題はカオスを考えるうえで極めて重要である。カオスという現象を視覚的にイメージしやすいからだ。
真空の宇宙空間にたった二つの天体があり、重力を及ぼし合いながら運動している情景を想像しよう。他にどこにも天体はなく、お互いの影響以外には何の影響も受けていないと仮定する。その二つの星はおそらく常に一定の動きのパターンを示すことが想像されるだろう。宇宙には二連星という天体があり、互いが互いに追いかけっこするような形で回っている。それらの天体が自転をしていて、その動きを考慮するとなると途端に複雑になるが、とりあえずは二つの天体を二つの点と考えるならば、互いが互いを追いかけっこする形を想像できればそれで済む。追いかけっこをしている二点は必ずある平面上で動く。それは静止しているかもわからないしそれ自体がひねりの運動をしているかもしれないが、とりあえず安定した動きを示すだろう。(ただし二連星の場合は、「しばらくの間は」、と断らなくてはならない。二連星は結局は一方が他方を飲みこみ、大爆発を起こし、最後に一つの中性子星が残るという運命をたどるらしい。)
 さてこれが3つになるとどうなるか、という事だが、途端にカオスになる。という事は繰り返しのパターンを作らないという事だ。つまりある場面での3つの天体の状態と全く同じ状態(それぞれの天体の間の距離、速度、運動の方向も含めて)には決してならないという事だ。もしある時点Xからある時間がたってYという時点でまったく同じシーンが現れたとする。するとそれ以降はそれらの天体の動きをことごとく言い当てることが出来る。なぜならXからYまでの動きを未来永劫繰り返すことになるからだ。ところがそれが起きない。これをカオスと呼ぶのである。先ほどの数字の話と同じだ。しかしこのことが1890当時にポアンカレが発見するまでは話題にならなかったというのは実に不思議なことだ。