2019年4月29日月曜日

アトラクター 5


悲しいアトラクター
ここで少し心理の本らしく(ナンのことだ?)、人間が持つ悲しい運命をたどるアトラクターを紹介しよう。それは人と人との、あるいは国と国との争いが起きる際に見られるアトラクターである。
当たり障りのないように (逆に当たり障りがありすぎかもしれないが架空の二国間の争いを想定しよう。
A国:貴国(B国)の振る舞いについて非常に遺憾に思う。貴国の船は明らかに我が領海を侵犯している。
B国:貴国(A国)の主張を非常に遺憾に思う。もともと我が国は貴国の領海の侵犯などしていない。レーダーのデータの誤りではないか?
A国:これは何ということだ。貴国は最初に領海を侵犯しておいて、こちらが嘘の話を作り上げたと主張するとは、盗人猛々しいにもほどがある。
B国:あり得ない話である!ではいうが、今貴国が自分の領海と主張している海域は、歴史的には明らかに我が国が長く治めていた地域である。これについては歴史的な証拠もたくさんあるのだ。
A国:笑止千万である。貴国こそがあり得ない話をでっち上げ言いがかりをつけているのだ。貴国の歴史的な証拠も、どうせ捏造に決まっている。
B国:明らかに我が国に対する挑発行為であり、黙っているわけにはいかない。このような挑発を続けるなら、貴国の領土が焦土化するような事態を招かないとも限らない。
(続く)
という感じで、両者が非難合戦を続け、そのうち国境での小競り合いが生じると、それを口実に互いの軍隊が出動し・・・・。
この種のアトラクターはおそらく人間の知能の産物であろう。ここには言葉による歪曲や挑発の相互的な増幅が明確に関与している。ニホンザルの群れ同志が森で出会ってけんかになっても、おそらくこの種の応酬のエスカレーションといったアトラクターは見られないだろう。いきなりガチンコの争いが起き、おそらくあっという間に決着がつき、終息する。互いが胸の内に恨みを抱きあいながら休戦状態になるという別の種類のアトラクターが成立することもないだろう。