DIDと診断されたリオさん(30代女性、教師) と母親の反応
(中略)
4.パートナー(配偶者)および子どもとの関係
患者さんが原家族から独立し、配偶者やパートナーとの生活を送っている場合は、状態はかなり異なってきます。そのパートナーが治療場面に付き添ったり、一緒の面談を求めてくるような場合には、本人の治療にある程度協力する意志や覚悟を持っていることが考えられます。中には治療的に重要な役割を果たすキーパーソンとなる場合もあります。患者さん本人の承諾が得られれば、彼らにはできるだけ詳細に実態を知らせ、現実的な協力を求めるのがよいでしょう。特に原家族との間に入り、必要な連絡や調整に力を貸してもらえることは心強いものです。
患者さんに子どもがいる場合は、その影響について配偶者やパートナーと話し合うことも重要です。治療協力者としても家族の中心人物としても大きな負荷のかかりやすい彼らに対して、治療者はできる限りの心理的なケアを提供すべく心掛けたいものです。共同治療者に彼らの心理的ケアを担当してもらい、並行面接の形を取ることができればなおよいでしょう。
配偶者により親との関係を断つことが出来たミキさん)20代後半女性、総合職勤務)
(中略)
5. 症状悪化の家族背景を理解する
解離性障害は通常は、安全で安定した人間関係や環境では症状が徐々に和らいでいく傾向にあります。しかしその経過には波があります。それまでは順調に回復していた患者さんが急に調子を崩したり、フラッシュバックが頻発するようになることもあります。そしてその原因を特定することが難しい場合も少なくありません。
フラッシュバックや人格交代などの症状を引き起こすきっかけとして、トラウマ記憶の想起を誘発するような状況があります。患者さん本人も家族もその状況について知り、本人の危険な記憶の想起をできるだけ避けるようにします。例えば海で溺れたことのある患者さんが水辺に近づくとフラッシュバックを起こす場合に、なるべくそうした場に近づかないようにするのは、とりあえずの対処療法として有効です。またときには家族で一緒に見たドラマに出てきたあるシーンが、あるトラウマ記憶を呼び起こすこともあるでしょう。このような出来事は日常生活を営んでいるうえでは、ある程度不可抗力的に起きることですが、家族は何がこのような記憶の想起に繋がっている可能性があるかについて目配りすることが出来、それが患者さんの状態を知るうえで重要なカギとなるかもしれません。なぜなら患者さん本人がそれに気が付いていない場合も少なくないからです。
患者さんの状態に直接的にかかわる可能性があるのが、家族の置かれたストレス状態や気分の波です。
配偶者の暴言により状態の悪化したミドリさん
(中略)