2019年2月25日月曜日

解離の心理療法 推敲 20


子ども人格をもつカリンさん(40代女性、会社員)

(中略)


このカリンさんの例では治療者が子ども人格の気持ちをなだめる行動に出たことが、結果的に人格の情緒的解放を促進し、進展のきっかけをもたらしました。しかしそこには一時的な治療構造の揺さぶりや破綻が生じたことも注意すべきでしょう。つまり治療構造が厳密に持されることと治療が進展することは、お互いに両立しないこともあるのです。そしてこのことは、治療構造を守るということが独り歩きして、あたかも一つの治療目標のように扱われてしまうことの危険も教えてくれています。構造を安定させることは非常に大切ですが、それをかたくなに守ることとは違います。柔構造による建築物のように、変化を受け止めて、「しなる」ことで、いわば動的な安定性を発揮することが重要です。たとえば10分遅れてきた患者さんに、5分の延長を提供すという努力もそうです。患者さんの心の不安定さにもかかわらず、いつもと同じに近い体験が出来た、と患者さんが思えることが大切なのです。ただし10分遅れた分を治療者の側が取り戻そうとしたことで、当然治療者にもストレスが加わります。それを治療者の側がことさら患者さんに隠す必要はありません。いわば患者さんの側が失ったコントロールを、治療者が一緒に受け止め、できるだけリカバーをする、という共同作業の体験に意味があると考えてください。