2018年12月26日水曜日

解離の本 63


1− 3 重大な状況に一時的に表れる
 黒幕人格は大抵は突然出現します。特に相手を特定せずに無差別的に怒りを表出することもあれば、特定の相手に攻撃を向ける目的で出現することもあります。通常その出現の仕方は瞬時であり、周囲が追いつけずに対応できない場合がほとんどです。これは黒幕人格が何かの刺激で偶発的に飛び出してきた、ということもあれば、すでにそれを後ろで見ていて意図的に飛び出してきた場合もあるからです。しばしば聞くのが、街を歩いていて、あるいは電車の中で、誰かが激しい口論をしているのを見て、突然黒幕さんが飛び出してきたというエピソードです。診察室で泣き叫んでいる患者さんの声が外に漏れてしまい、それが引き金になったという例もありました。
黒幕さんの示す攻撃性が特に激しい場合には、警察に通報され、そのまま措置入院になってしまう場合もあります。もちろん事件性が生じた場合は逮捕されてしまうこともあります。また自傷行為や自殺企図により自分自身の身体を傷つけたり、深刻な外傷を負った場合には救急搬送され、そのまま入院となることもあります。ただし特に大ごとにならずに済んでしまう場合も少なくありません。それは黒幕さんがかなり足早に姿を消してしまい、その後に戻った人格がその出来事を記憶していなかったり、およそ攻撃性とは程遠い印象を与えることで、周囲の人々もそれ以上深くかかわらないで終わってしまう場合が少なくないからです。特に家族間の場合は、攻撃性が向かった相手が親や配偶者である場合は、そのパターンに慣れてしまっていて、しばらく体を抑えて元の人格に戻ってもらう方を選ぶでしょうし、本人が知るとトラウマになるからという理由でその間の行動を主人格に伏せたりするということもあります。
先ほども述べたとおり、黒幕さんの出現は大抵は一過性のものです。特に暴力行為や破滅的な行動の場合は、急速に立ち去ってしまいます。このような場合には、黒幕さんはかなりの身体的および精神的エネルギーを消費し、文字通り「起きている」ことがそれ以上出来ないようなのです。