ここも推敲部分。いい加減にこの論文終わりにしなきゃ。
その他
トラウマは脳に直接刻印される?
最後にこの項目を設ける理由は、最近の画像診断の発展により、私たちが想像しなかったような「脳への刻印」が生じているらしいことがわかってきているからだ。端的に言えば、過去のトラウマの体験により、海馬等の脳の特定の部位の容積が減少したり、逆に増大したりするという現象なのである。脳にはたくさんの細胞が詰まっている。そんなに細胞が増えたり減ったりするのだろうか?トラウマを受けたくらいで脳の部位が小さくなるということなどあるのだろうか? しかしともかくもそれが最近の CT や MRI などの画像技術により明らかにされつつあるのである。
ネットで全文が手に入るすばらしい論文!
Gold, AL, Sheridan, MA., Peverill, M. et al, (2016) Childhood
abuse and reduced cortical thickness in brain regions involved in emotional
processing Child Psychol Psychiatry.57: 1154–1164.
虐待を受けた子供では前頭前野や側頭葉の容積が低下しているということは報告されていた。最近のメタアナリシスでは、腹側前頭前野、上側等回、扁桃体、等の体積の減少が指摘されている。
さらには虐待を受けた子供で、一次視覚野の容積の現象が見られるということである。なぜ視覚野か? ある研究ではこれはワーキングメモリーに関わる問題であるという。というのもある記憶を短期間保持する場合に、私たちは視覚的な情報に依存する場合が多く、一次視覚野の体積の減少はこの機能を低下させるというのだ。さらに興味深いこと。虐待がどの年齢に起きたかにより、脳のどの部分が委縮するかという「感受期」が知られているという。それによれば記憶に関わる海馬は 3 から 5 歳、脳梁(左右半球をつないでいる部分)は 9~10 歳、前頭前野は 14~15 歳であるという。ここで少し想像をたくましくするならば、幼少時のトラウマは海馬の機能不全を介して解離の病理を生むであろうということだ。あともう一つ興味深かったのは、虐待により脳は萎縮するばかりでなく増大もするという。特に暴言を聞き続けた子供は、聴覚野の一部が増大し、それはそこで正常に行われなくてはならなかった神経線維の刈り込み(剪定 pruning)が損なわれているためであると説明されている。
ところで私たちは長年、神経細胞は一度出来たら再生することはないと考えてきた。胎生期に最大の数に分裂した神経細胞は、基本的にはそれから消失されていく一方であると考えている。しかし 1990年代に神経幹細胞と新生神経細胞が成人の脳にも存在することが示され、成人で神経が新生される可能性も示され、その意味では画期的な研究報告であったが、その詳細はわかっていない。するとトラウマによりその容積が減少し、その後は神経細胞の新生により体積の増大があるということか? しかし容積の減少と増大のスケールはハンパなく、この神経細胞死滅、および新生の数からはとても説明できないことになる。
おそらくこの問題についてはほとんど理解が進んではいないが、最近のグリア細胞に関する知見はひとつの可能性を示しているであろう。グリア細胞とは、神経細胞の50倍もの数が存在し、神経細胞を取り巻き、栄養を送り、支えている、別名神経膠細胞と呼ばれている細胞だ(「膠」とはニカワのこと)。このグリアが実は脳において意外にも大きな働きをしているということが研究により次々と明らかになってきている。(R・ダグラス・フィールズ (著), 小松 佳代子 (翻訳) (2108)「もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役『グリア細胞』」 ブルーバックス 新書 )
おそらくこの問題についてはほとんど理解が進んではいないが、最近のグリア細胞に関する知見はひとつの可能性を示しているであろう。グリア細胞とは、神経細胞の50倍もの数が存在し、神経細胞を取り巻き、栄養を送り、支えている、別名神経膠細胞と呼ばれている細胞だ(「膠」とはニカワのこと)。このグリアが実は脳において意外にも大きな働きをしているということが研究により次々と明らかになってきている。(R・ダグラス・フィールズ (著), 小松 佳代子 (翻訳) (2108)「もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役『グリア細胞』」 ブルーバックス 新書 )
おそらくこのグリア細胞の数の増減が、「脳の刻印」に関係していることが推察されるが、今のところこれは私の妄想でしかない。