2018年6月21日木曜日

短いあとがき


あとがき

精神分析の世界の中で、いろいろな提案をし、論文や著書の形で世に問うという作業を重ねているうちにもう還暦をとうに超えてしまった。我ながらあっという間という気もするし、しかしこれまでの道程を思うと長かったとも思う。もし三十歳若返ることが可能で、また同じことをもう一度繰り返す機会を与えられるとしても、断固拒否したい。私はこれまで辿った道程にほぼほぼ満足しているし、あとどれほど時間が残されているかわからないが、これからも同じ方向を歩んでいきたい。
今後のあるべき精神分析の方向性を考える上で、最近出会った、いわゆる「多次元的アプローチ」の理論はそれを比較的うまく表現してくれていると感じる。ミック・クーパーとジョン・マクレオットによるこの理論(末武康弘、清水幹夫訳「心理臨床への多次元的アプローチ」岩崎学術出版社、2015年)は、様々な精神療法の理論を統合的にとらえ、人間の多様さを認めたうえで、様々な療法の中からベストなものを選択するという立場である。もちろんそこには精神分析療法も含まれるが、認知療法、行動療法、パースンセンタード療法など様々なものを含む。これは患者にベストなものを提供するという私の発想と同じである。まえがきにも書いたが、私の母国語は精神分析であることは間違いない。私はそれを通して多次元的なアプローチの精神を追求したいと思う。
そうはいっても私がこれまで主として依拠していたウィニコット理論や関係性理論から多次元的アプローチに宗旨替えしたというわけではない。有難いことに多次元的アプローチの出現により、私が考えていた精神が言葉になったというわけである。クライエントにとってベストなものを追求するために、母語である精神分析理論を使って、そのあるべき姿をこれから描いていきたいと考えている。
なお本書は例によって (以下略)          
改めて深くお礼を言いたい。