3. トラウマ的環境に身を置かざるをえない事態では
一般的に生育環境においては、親の側が虐待をしているという認識がなくても、子供にとってはトラウマ的といえる環境が存在します。子供の側でもトラウマを受けていると感じる部分が解離されているために、その認識がかけている場合もあります。
たとえば家族が日常的に患者さんを否定し価値下げする状況にあったとします。患者さんはそれに合わせた自己認識たとえば「自分はダメな人間だ」を持ち、そのことを疑問に思わないとします。すると治療者がその患者さんの長所を指摘し、自己価値観を高めるようなかかわりをすることで、患者さんはかえって混乱に陥ってしまいかねません。患者さんの多くは目の前の親の思い描く自分に同一化しようとする特性をもつために、自分を「ダメな人間」と規定してきたわけですから、かえって自己イメージの混乱が起きかねないのです。時にはそれが症状の悪化につながることもあります。患者さんへの励ましや叱咤激励など、治療者や周囲がよかれと思い行うかかわりが、患者さんの不安を高め、罪悪感を深める可能性も出てくるのです。
治療においては原家族でおきていた可能性のあることについて、患者さんと話し合うことも大切です。また患者さんのそのような混乱を防ぐためにも、治療者は患者の置かれた状況を見立て、患者さんの家族や知人と情報を共有し、必要に応じてアドバイスを与える機会をもつようにします。場合によっては患者さんと家族に対して別担当者による並行治療を準備できればなお望ましいでしょう。可能であれば、患者さんの負担に関与している家族と本人の同席面接を設定し、家族療法的な介入や対応を検討することも有効です。ただしあらゆる方法を駆使しても現状が改善せず、家族といることが治療的に不適切と思われる場合には、家族から離れて安全な環境に身をおくことも検討すべきでしょう。すなわち現在の家族と物理的に距離を取ることを考える必要があります。