2018年4月22日日曜日

解離の本 21

家族への対応

1.はじめに

 第1章でも述べたように、DIDの治療ではその症状に気づいた家族からの訴えで始まることは多いものです。交代人格の行動により患者さんの生活には多様な問題が生じ、それにより家族も日常を脅かされています。ただし人格交代の現場に居合わせても、それが詐病や演技であるという疑いを抱いていることは少なくありません。
患者さんの身近に暮らす家族が解離の症状を見過ごすにはいくつかの理由が在ります。一つには解離がそもそも家族に囲まれた環境で生じたという事情があります。たとえば父親との虐待的な関係で人格が生じた場合、その人格は父親の前では表現されることを許されず、またその虐待を理解してもらえない母親の前でも表れることが出来ずに潜伏することになります。その患者さんの家庭は、一定の感情や振る舞いしか許されないような、強固な枠組みを持ち、その中で交代人格たちは外へ出ることを許されずにいる状態といえるでしょう。そして時々別人格が漏れ出し、姿を垣間見させるとしても、その両親により即座に否認され、否定される運命にあるでしょう。
 さらに両親にとって自分の子供にもう一つの人格があると言う事実は、多くの場合まったく受け入れられない考えであるという事情も考えなくてはなりません。一人の人に複数の人格が存在するということは、通常私たちが持つ常識を超えています。そのような現象が起きうることを、DIDの臨床に携わっている人々は受け入れていますが、一般の人々にとってはまだまだ容易には想像できないでしょう。ましてや患者さんの家族の場合には、それが更に難しくなる可能性があります。一般的な知識としてはDIDの存在を知っていても、まさか自分の子供にそれが生じていると認めることは難しいということは容易におきます。
DIDの患者さんでは治療が進み交代人格の存在が確認されてからも、「自分の思い込みではないか」「自分は回りの人を騙しているのではないか」と考え、しばしば病識そのものが揺れ動きます。「自分は病気ではないのでは」と思い込み、治療の必要性を見失うこともあります。自分自身を信じきれず、自己喪失に陥りやすいのが解離性障害の特徴ともいえます。自らの実感への信頼が乏しく、対人不信のみならず自己不信ともいえる状態にあるのです。よって、患者さんの身近にいる家族や支援者に対しては、心理教育的関わりを通してDIDという障害への受け入れを進め、トラウマへの理解をもってもらい、症状の悪化をできる限り防ぐような協力体制を作り出すことが求められます。